4話‐7
「させるか!」
フレーダーの放つ超音波を防ぐべく、炎の壁を作り出す。
衝撃によって炎の壁が揺らぎ、火の粉が俺達に向かって降り注いでくる。
……しかし、俺の超能力は炎を自在に操れる。
降り注ぐ火の粉はすぐさま炎の壁へと戻し、炎の壁を揺らぐ事のないようにする。
「奴の超能力を防げるかわからなかったけど、やってみるもんだな。おい、あんた達、早く隠れ――」
「ありがとうございます。以前も助けて貰ったのに、碌にお礼もできず……」
二郎達に退避を促すのを遮る様に、委員長が一歩前に出てきて俺に話かけてくる。
……以前は度胸があると思っていたが、ただ危機感がないだけじゃないのか、この子。
「い、いや、お礼とかいいから。邪魔にならないようにどっかに隠れといてもらえるのが、一番助かる」
「この人の言う通りだ。早く店内に戻ろう! 鳥野さん、委員長を連れてくのを手伝って!」
二郎と鳥野さんに引っ張られ、委員長がカフェの中へと消えていくのを見届けた後に、炎の壁を消滅させる。
……ちゃんと仕事してくれたな、二郎。
「余所見とは、俺も随分嘗められたもんだな!」
「しまっ――うわぁ!?」
俺が二郎たちに気をとられている隙に、近くまで迫っていたフレーダーに襟首を掴まれ、俺の体が宙に浮く。
「こ、この! 放せ!」
俺を掴んでいるフレーダーの腕を両手で握り、足をばたつかせて抵抗するがフレーダーは意に介する素振りすら見せない。
「こいつで止めだ!」
フレーダーは首を掴んでない方の手を大きく振りかぶる。
恐らく、次の攻撃がこの戦いの勝敗を決める最後の一撃になってしまうだろう。
「……フレーダー、スーツの弱点はそのままみたいだな」
そう、俺の放つ一撃でこの戦いを終わらせる。
ヘルメットに隠れていて奴にはわからないだろうが、ニヤリと笑って頭を大きく後方へと逸らす。
「何を――」
フレーダーが何かを言おうとしているが、待つ義理など一切無い。
スーツに覆われていない額を目掛けて、ヘルメットに覆われた頭を勢いよくぶつける。
「ぐぁっ……」
頭突きで怯んだフレーダーが俺を掴んでいた手を離した事で、自由になった俺は地面へと着地する。
「そのマスク、衝撃に対する耐性は充分か?」
腰を低く落とし右手を強く握り締め、マスクに覆われている下顎を目掛け、ジェット噴射で加速させた拳を突き上げる。
「がっ……」
見事に炸裂したアッパーカットによって破壊されたマスクの破片が宙を舞う。
そして、意識を失ったフレーダーが地面に倒れこんで動かなくなる。
……本当に意識を失ったよな?
ピクリとも動かないフレーダーに近寄って軽く蹴飛ばしてみるが、反応はない。
スーツから取り出した拘束バンドを使いフレーダーの手足を拘束する。
「よし、後は警察に任せてここから離れよう」
ポケットから取り出したバイクに跨って、俺はこの場から一度離れる事にした。
人気の無い場所でスーツから私服に着替えた後、二郎達と合流する為にカフェへと戻る。
「ショウ! 無事だったか!」
「そっちこそ、大丈夫だったか? 別の超能力者が現れて戦闘が起きたって聞いて、心配したよ」
俺がカフェに到着した時、フレーダーは恐らく警察に連行されていて姿が見えなくなっており、機械人形の残骸も回収されていた。
「おいおい、誰もお前の事を心配してる訳じゃないよ。お前が助けた子供が無事なのか気になったんだ」
「……安全な所まで送ってきたから大丈夫だよ。その様子だと、そっちは大丈夫みたいだな」
……まあ、皆が無事なのは知っていたけど、演技は大事だ。
「そんな事言って一条君、さっきまで火走君の事を凄く心配してた癖に……」
「……鳥野さん、幻覚でも見てたんじゃないかな? こんな事件に巻き込まれて疲れてるんだよ」
二郎の奴、なんやかんやで心配はしてくれていたのか。
正直心配されてないと思っていたから、少し意外だな。
「そんな事より、やっぱりヒーローは格好いいな! あんなに近くでヒーローの活躍を見れるなんて、ある意味ツイてたのかもな」
照れ隠しなのか、二郎は先程までの俺の活躍へと話題を移そうとする。
「本当に格好良かったですね。私、益々ファンになってしまいそうです」
そんな二郎に同調するように、委員長も俺の活躍を褒めたたえてくれる。
……俺自身が直接言われている訳じゃないが、面と向かって評価されると照れ臭くなるな。
「そうだよね。ちゃんとアタシ達の事も守ってくれたし、少しだけ興味が湧いたよ」
「興味が出た? それなら俺がヒーローについて教えてあげよう」
鳥野さんの反応が好ましいものとみるや否や、二郎はすぐさまスクラップブックを取り出し始める。
「……それは遠慮しとくよ」
「そ、そう……」
二郎は自分の提案を即座に断られ、少しショックを受けている様子だ。
……当然の結果だろうに、そんなにショックを受けるなよ。
とりあえず、俺も話を合わせておくか。
「へえ、そんなに格好良かったのか。会えなかったのが少し残念だよ」
「……私は、火走君も格好良かったと思いますよ」
……え?
「は、はぁ!? 委員長!? 急に何を言い出すんだ!? 俺のどこが格好良かったんだよ!」
「自分の身を顧みずに、置き去りにされていた子供を助けにいったじゃないですか。中々できる事じゃないですよ」
急に褒められて焦り、思わず声も大きくなってしまう。
我ながら動揺しすぎじゃないかと思うけど、格好良いと言われることなどそんな経験は今までに無かったから仕方がない事だ。
……顔が妙に火照ってきた気もするが、多分先程までフレーダーと戦っていた事が原因だ。
決して委員長に格好良いと言われた事が原因じゃない。
「そ、そんなの、偶々俺が早く気付いただけで、俺が気付かなきゃ誰か他の人が――」
「ショウ、照れてんのか? 顔が赤いぜ」
「そうだね。思い返せば本当に格好良かったし、謙遜する必要なんてないのに」
……ヤバい、かなり照れ臭くなってきた。
まさかこんな状況になるなんて。
……二郎、そのニヤケ面は単純に俺をからかっているだけだな。
後で覚えておけよ。
「こ、この話はここで終わり! 二郎! さっき戦ってたヒーローの事を教えてくれ!」
話題を変える為に二郎にヒーローの話を振ってやる。
単純な二郎の事だから、話題に乗ってくるはずだ。
「よし! まずはさっきのヒーローが何と呼ばれているからだな――」
……二郎が話を始めた所で街の様子を眺める。
先ほど戦闘が行われたというのに、何事も無かったかのように人々は町を歩く。
街は少しだけ破壊されてしまったが、怪我人が殆ど出なかった事が大きいのだろう。
それは、俺がヒーローを目指して活躍したお蔭と言うのは言い過ぎではない……と、思いたい。
……まあ、俺がヒーローを目指して戦うのは、結局自分の為なんだけどな。




