4話‐5
俺はすぐさま立ち上がり、叫び声の聞こえた方へと視線を向ける。
「逃げ惑え、カス共! そしてオレの圧倒的な力に怯えろ!」
今日まで探し続けていたフレーダーが俺の目の前で叫び、近くにいる人達へ手当たり次第に危害を加えようとしている。
……奴を倒す絶好のチャンスだが、どうやって戦う?
一応スーツとヘルメットは持ってきているが、何とか理由を付けて委員長達から離れなくてはならない。
どうにかして戦う算段を考えていた俺だったが、ある事に気がついてしまい思考を中断せざるをえなくなってしまう。
「ヤバいよ! 早く逃げないと!」
「まずは一度、店内に避難しましょう。それから様子を見て裏口から逃げるのが良いと思います」
委員長と鳥野さん、そして二郎が喫茶店内へと逃げ込もうとするが、俺は皆とは逆の方向……外へと飛び出していく。
「ショウ!?」
「子供が取り残されてる! 二郎は二人を頼んだ!」
破壊の限りを尽くすフレーダーから逃げる事ができず、奴の近くに取り残されてその場にうずくまっている子供の姿を見つけてしまい、脚が勝手に動いていた。
「全て破壊しつくしてやる!」
周囲の事を気にせず暴れまくるフレーダーの超音波を全力疾走で掻い潜ると、子供のいる場所にあと一歩と言うところまで近づく。
「ほう、逃げ遅れた奴と助けにくる馬鹿がいたか!」
自身から離れていく人しかいないなかで、態々近づいていけばどんな単細胞が相手でも流石に気付かれてしまう。
フレーダーは、子供に向けて容赦なく超音波を放った。
「させるか!」
関係無い人を傷つけさせるわけにはいかない。
蹲っている子供へ向け、手を伸ばしながら思い切り跳ぶ。
「自分の身も顧みずに飛び込んでくるとは、馬鹿な奴め」
「ぐっ……」
間一髪、子供を胸に抱きかかえてフレーダーに背を向け蹲る。
子供を守る事には成功したが、俺自身は超音波をモロに受け止めてしまう。
……呻き声を上げながらも背中越しに伝わる超音波の衝撃に耐えながら立ち上がると、この場から逃げ出す為に全力で走り出した。
「腰抜けが、逃げ出したか」
フレーダーの吐き捨てた罵倒を背に受けながら、俺は心の中で誓いを立てる。
……覚えてろよ。
すぐに戻ってきて、お前を叩きのめしてやる。
……数分間ほど走った所で、抱えていた子供を地面に降ろす。
「……き、君、大丈夫かい?」
今までの事で動揺していた子供は上手く声が出せなかったのだろう。
俺の言葉にただ頷く事しかできない。
「そうか、それは良かった。……ここからは、君一人で逃げるんだ。俺は少し休憩してから逃げる事にするよ」
そう言ってその場に座り込んだ俺を子供は暫くの間心配そうに見つめていたが、やがて俺達が逃げてきた道とは逆方向へ走り出していく。
「聞き分けが良くて、助かるな」
俺は子供の背中が見えなくなった所で立ち上がると、スーツへ着替える為に近くの路地裏へと歩を進めた。




