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4話-4

「……俺が一番乗りか」


 我が校の創立記念日当日。

 集合時間の十分前に集合場所である駅前を訪れるが、二郎達の姿は見当たらない。

 先日発生した俺とスピネによる戦闘の痕跡は既に綺麗サッパリ無くなっており、戦闘があったということすら感じさせない。


「Heyカノジョ! 一人で何してんの? 俺達といっしょに良い事しない?」


「申し訳ありません。友達を待っているので、遠慮させていただきます」


……どうやら俺よりも先に到着していた人がいたらしい。

二人組の男に遮られて見えなかったが、聞き覚えのある声が耳に入る。

様子を伺ってみると、委員長が困ったような笑みを浮かべながらナンパされていた。

……どれだけ古臭いナンパの仕方なんだ?

今は二〇四〇年だぞ。


「友達より、俺達といっしょに遊ぶ方が絶対に楽しいよ? だから俺達といっしょに――」


「お前達より面白くない友人が来ましたよっと。わかったら、さっさとどっか行けよ」


 男達の背後から声をかけると、彼らは驚いたような顔をして此方に振り向く。


「おいおい、彼氏持ちかよ。そうならそうだと言ってくれよな」


 男達は俺に気付くと、舌打ちをして立ち去っていく。

 何だよ、随分と物分かりがいいじゃないか。

 とはいえ、妙な勘違いは訂正しておくべきだな。


「彼氏じゃないぞ! ……大丈夫、委員長? 変な事されてない?」


「だ、大丈夫です。それよりも、助けていただいてありがとうございます」


 委員長は朗らかに笑いながら、ペコリと頭をさげる。


「気にしなくてもいいよ。……でもさ、笑いながら誘いを断っていたら、本気で嫌がってるって思われないから気を付けた方がいいよ」


「あの人達も悪気があってやっている訳では無いと思うんです。……だから、あまり酷い断り方をして傷つけたくないんですよ」


 ……ああいう輩には遠慮なく、言うべき事はハッキリ言ってしまって構わないと思うけどな。

 この間、スピネとの戦闘中に助けてくれた時も思ったのだが、変な事件に巻き込まれたりしないか心配になってくるな。


「それにしても、委員長に先を越されるとは。今日は早くに目が覚めたから一番早く到着したと思ってたんだけどな」


「皆と遊ぶのが楽しみで、早く来すぎてしまいました」


 ……成程、二郎が言っていた彼女にするなら委員長、というのが少しだけわかった気がする。

 それにしても、皆と遊ぶ?


「今日来るのって、俺と委員長以外は二郎だけ――」


「アタシもいるんだよね。おはよう委員長、火走君」


 声のした方へ振り向くと、二郎と鳥野さんが近づいてくる。


「委員長とは既に話は付けてあるわ。委員長を男子だけと遊ばせる訳ないでしょ。むしろ、美少女が二人に増えたんだから感謝しなさい」


「と、言う事らしい。……自分で美少女って、自称するか?」


 二郎は呆れた様子で鳥野さんの自称にツッコミを入れる。

 ……まあ、委員長程では無いが顔立ちは整っている方ではないのだろうか。

 実際の所、鳥野さんは委員長の事が心配だったんだろう。

 先程の委員長の様子を見ていると、その気持ちもわかる。


「とりあえず、落ち着ける場所にでも行こうか」


 このまま立ち話をするのもなんだし、場所の移動を提案する。


「それなら私が雰囲気の良い喫茶店を知ってますから、そこに行きましょう」


「……スルー!? 一条君が言ってた通り美少女を自称するのはどうかと思ったけどさぁ……」


 ぼやく鳥野さんに謝りつつ、四人で街中へと歩を進めていった。




「それでさ、ヒーローにも営利目的でやっている人と、人助けそのものを目的としてやっている人がいる訳なんだよ。俺としては、ヒーローとして活躍するだけで立派だと思うんだ。だから後者のほうが格好いいと――」


 駅前から少し歩いた所にある喫茶店。


 俺達はオープンテラスの席に座って、委員長御所望の二郎によるヒーロー談義を聞かされていた。

 ……いや、話を聞いているのは委員長だけだ。

 二郎が喋り始めてから五分経った辺りで、俺と鳥野さんは手元のスマホを弄り始めていた。

 そんな俺達を気にも留めず、朗々とヒーローについて語り続ける二郎。

 そして二郎の話を、いつもと変わらない笑顔を浮かべて相槌を打ちながら聞く委員長。

 この独特な空間に耐えられなくなったであろう鳥野さんが、自分と同じように暇そうにスマホを弄っている俺に声をかけてくる


「火走君、一条君っていつもこんな感じなの?」


「ああ、そうだよ。二郎の奴、一度口を開くとずっと喋り続けるんだよ、壊れたスピーカーみたいに」


 鳥野さんの質問に答えつつ、呆れたように二郎を眺める。

 ……聞こえている筈だろうに、喋るのを止めようとしないのは筋金入りだな。


「……よく友人を続けられてるね」


「中学の時から友達やってれば嫌でも慣れる。それに、今みたいにスマホを弄って話を聞いてなくても気にしないからな。聞く気がなければ、適当に流しておけばいい」


「友達をそんな雑に扱うの……?」


 俺の返事を聞いた鳥野さんは、若干困惑したように見える。

 しかしだ、困惑されても俺と二郎は普段からこういう友人関係なんだから仕方ない。

 ……俺と鳥野さんの間を、沈黙が支配する。

 うん、普段鳥野さんと話すことが無いからどういう話題を切り出せばいいのかわからない。

 何とか話題を探そうと思考を巡らせるが、特に思い付く事はない。


「と、ところで一条君。ものすごく熱心に話してるけど、どうしてそこまでヒーローに入れ込めるの?」


 沈黙にいたたまれなくなったであろう鳥野さんが、今度は二郎に疑問を呈した瞬間、奴は待ってましたと言わんばかりに立ち上がる。


「よく聞いてくれた。俺の夢は、ヒーローの素晴らしさを皆に伝えるジャーナリストになる事なんだ。その為に、いつもショウ相手にこうやって練習してるんだよ。……まあ、今は興味のある人にしか話を聞いてもらえないから、まだまだなんだよな」


 ……こいつ、本気でジャーナリストになろうと考えてたのか。

 というか、俺はその練習にいつも勝手に付き合わされてたのか。


「一条君は、もう将来について考えてるのか。アタシの夢は、金持ちのイケメンと結婚して幸せな生活を送る事かな。そういえば、委員長には将来やりたい事とかあるの? 委員長の夢、凄く気になるな」


 成程、二郎のやかましいヒーロー談義から話をすり替えるつもりか。

 興味が無い人からしたら、苦痛でしかないもんな……。


「私のしたい事、ですか……。具体的に何をするかというのは考えていませんが、世の中の為になる事をできたらいいですね」


「……私欲にまみれているアタシの夢が、恥ずかしくなってきたよ」

 委員長、俺よりヒーローらしい事を言ってるな。


「鳥野さんの夢も素敵だと思いますよ。火走君は、どんな夢を持っているんですか? 皆、自分の夢を話したんだから、火走君の夢も教えてもらえませんか?」


 いつもと変わらないにこやかな笑顔で委員長は問いかけてくる。

 ……俺に話を振ってくるか。

 正直、将来何をやりたいとか考えた事が無かった。

 特に最近はヒーローを目指すのに忙しくて、そんな事を考える暇も無かった。


「俺の夢は――」


「うわぁぁぁぁぁぁ!」


 暫し考え込んで口を開いたその瞬間、何かに怯えるような叫び声が周囲に響き渡った。

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