3話-7
「俺がウスノロかどうか、確かめてみろ!」
露出している顔の上半分を真っ赤にしたフレーダーは、俺目掛けて一直線に突っ込んでくる。
……あんな安っぽい挑発に引っかかるとは、俺の想像以上に気が短いらしい。
フレーダーの突撃をサラリと躱し、その背中を蹴り飛ばして店外へと追い出す。
「何が確かめてみろだ、やっぱりウスノロじゃないか」
「この――」
背後から蹴り飛ばした事でバランスを崩したフレーダーへ、追い打ちをかけるように殴りつけて黙らせる。
……人質を助ける為に店内へと移動したのだが、フレーダーが俺を探しに近づいてきたのはラッキーだった。
「俺を、嘗めるなぁ!」
そのままの勢いに乗せてニ発目の拳を打ち込もうとするが、俺の拳が受け止められてしまう。
「離せ! この野郎!」
受け止められた拳を引き抜こうとするが、フレーダーに捕まれた腕はビクともしない。
「腕一本、貰った!」
逃げる事のできない俺の腕を目掛け、フレーダーの手刀が振り下ろされる。
「させるか!」
手刀を空いている方の手で受け止める。
お互いに両手が使えない状態になってしまい、どちらも離そうとしないが故に膠着状態に陥ってしまう。
……いや、フレーダーには超音波がある。
基本的には手が空いていないと点火装置が使えない俺と違って、奴は叫ぶだけで超能力が使用できる。
「おっと? これはオレが有利なんじゃないか!」
俺がその事に気付いたタイミングでフレーダーが大声を上げると、凄まじい衝撃が俺を襲う。
先ほど自ら受けた時とは違い、至近距離で拳を掴まれているために逃げる事も衝撃を逸らすこともできず俺は目を瞑り耐える事しかできない。
暫くして超音波を止むとフレーダーが俺の手を離すが、俺はまともに立つことができずにその場でふらついてしまう。
「俺に勝てるとでも思ったのか? 馬鹿がよ!」
「ぐっ……」
ふらつく俺をフレーダーが蹴り飛ばし、俺は地面を転がってしまう。
……この程度で寝ている場合じゃない。
ふらつきながらも気力を振り絞って痛みを堪え、何とか立ち上がる。
「……勝てると思った? 違うな、俺が勝つんだ」
……超音波をモロに受けた影響で、躰も頭も酷く痛む。
だけど、この程度の痛みで悪党に屈してはヒーローになる資格などない筈だ。
「減らず口を!」
足元の覚束ない俺に向け、フレーダーが何度も拳を振るってくる。
何度か拳を受け止めようとするが、足元の覚束ない状態ではそれすらままならない。
……数分に渡りフレーダーの攻撃を受け続けた俺は、当然の結果として地面に膝をついてしまう。
「そろそろ十分かな? さあ、俺達の仲間になるというのなら助けてやっても――」
「……断る!」
再び俺を仲間に勧誘してきたフレーダーへの返事に右腕を振りぬくが、足腰に力が入っていないへなちょこパンチは、あっさりと受け止められてしまう。
「そういう態度なら、もっと立場をわからせてやらねえとな!」
フレーダーに蹴り飛ばされ、地面に倒れこんでしまう。
……痛む体に鞭を打って立ち上がろうとするが、それよりも早く近づいてきたフレーダーに胸倉を掴まれて無理やり立たされる。
「もう遠慮はしねえ。まずはお前の面を拝ませてもらおうか」
そう言いながら俺の頭部に手をかけ、素顔を隠しているヘルメットを外そうとする。
……かかったな!
「うおっ!?」
ヘルメットが頭から外れようとした瞬間、俺の頭部を深紅の炎が包みこむ。
突然の事に驚いたフレーダーは、俺の胸倉からを手を放す。
ヘルメットに内蔵されているマイクやスピーカーの電気は、腕に組み込んである点火装置からスーツの裏地に這わせた配線を伸ばし、スーツの首裏の辺りに取り付けたコネクタを介して供給されている。
通電した状態でコネクタが抜いてしまえば、僅かだが火花が散るのは当然の事。
そして例え小さな火花でも俺にとっては逆転の為の切り札になる。
……火傷しないとはいえ熱い事には変わりないからあまり使いたくない手段だったけど、背に腹は代えられない。
さて、反撃開始といこうか。
「はあぁぁぁっ!」
これ以上ないであろう、絶好のチャンスを逃すわけにはいかない。
気力を振り絞る為に掛け声を上げて飛び上がり、右腕を引く。
スーツの上から攻撃しても有効打にはなりえない。
……だけど、スーツに守られていない場所に攻撃を加えてしまえば、どんなにスーツが頑丈だろうと関係ない筈だ!
「喰らえ!」
フレーダーのスーツに覆われていない部位……、額目掛けて拳を振りぬく。
「ぐうッ――」
額から血が流れ、その場でふらつくフレーダー。
「まだまだっ!」
着地後にすぐさま追撃を仕掛け、フレーダーを殴りつける。
俺の反撃を喰らい後方へ吹き飛んだフレーダーだが、まだ意識はあるようで起き上がろうとしてくる。
「させるか――!?」
反撃される前に止めをさすべくフレーダーの元へ走り出そうとしたその瞬間、俺の足元の地面が砕け散った事で思わず足を止めてしまう。
「な、何だ!?」
視線を落として確認してみれば、砕け散った面積自体は大したこと無いのがわかる。
それでも、舗装された地面を砕く威力の攻撃に思わず背筋が凍るような感覚に襲われる。
『そこまでです』
頭上から聞こえてきた声に反応して視線を上げるとそこには、装甲服とヘルメットを身に付けた怪しい人影が宙に浮いていた。




