3話‐6
どうやら俺が人質の安否を確認している間に、目を覚ましたようだな。
とりあえず喋れるようにしてやる為、口に貼りついているガムテープを慎重に剥がす。
「キ、キミは何者なんだ!? まさか、奴らの仲間じゃないだろうな!」
口を利けるようになった人質は、俺に向けてそう言い放つ。
……心外だが、この恰好じゃそういう風に見えるのも仕方ないか。
「時間は無いから詳しい説明は省くけど、俺は奴の仲間じゃない。君達を助けにきた」
俺はそう言うと近くの机に置いてあった鋏を手に取り、人質の手足に巻かれている結束バンドを切ってやる。
「あの野郎、どこに行きやがった!」
……ドアの向こうからフレーダーの声が響いてくる。
どうやら、店内で倒れている筈の俺がいない事にようやく気が付いたらしい。
「君に頼みがある。他の人達を解放して、一緒に裏口から逃げるんだ」
人質に鋏を差し出しながら指示を出す。
「……わかった。キミは、どうするつもりだ?」
鋏を受け取った人質は、俺が何をするつもりなのかを問いかけてくる。
……さっきまで取り乱していたというのに、既に冷静さを取り戻しているな。
「表で騒いでいるヤツを倒す。少なくとも、君達が逃げる時間くらいは稼いでやる」
「……本当にキミの事を、信じて良いんだよな?」
どうやら、俺に対する疑いの念は完全に晴れていないようだ。
無理もない。
自分を助けてくれたとはいえ、顔もわからない不審者を信用しろというほうが無理な話だ。
……だが、上等だ。
「……俺からは信じてほしいとしか言えないけど、俺を疑えるくらい冷静なら安心して他の人達を任せられるな。後は頼んだ!」
人質に後の事を任せると、勢いよく扉を開きフレーダーの元へと一気に駆け抜ける。
「そこにいた――」
「これでもくらえ!」
先手必勝。
大きく振りかぶった腕を全力で前へ伸ばすと共に、点火装置を起動させて肘からのジェット噴射で更にスピードを上げる。
俺に気付いて振り向いたフレーダーの腹部目掛け、拳を叩きこむ。
「ぐおっ……」
フレーダーの表情が歪み、呻き声をあげる。
全力で駆け抜けていた上に、ブーストまでかけたんだ。
少しは効いてくれてないと困る。
「この野郎!」
こちらに掴みかかろうと伸ばされた腕を、一歩下がって躱す。
狭い店内なら、近づいたまま戦えるだろう。
だけど……。
「こっちだ! ウスノロ!」
フレーダーを挑発しながら、店の出口に向けて走り出す。
このまま店内で奴を倒してもいいけど、人質を危険に晒してしまう恐れがある。
……万が一人質に危害が加わりでもしたら俺の評判が落ちてしまうし、それだけは避けなくてはならない。




