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3話-4

 ……話くらいは聞いてやるか。


「委員長の事に決まってるだろ。委員長はお前の事が好きなんだから、上手いことやればお付き合いできるかもしれないだろ?」


 ハハハ、コイツは何を言ってるんだ?


「……委員長が好きなのはクラスメイトの俺じゃなくて、この町でヒーローを目指して活動している俺だろ? むやみやたらに正体を明かす気はない。……それに好意といっても憧れとか、そういう類の感情だろ」


「今はそうだったとしても、お前がヒーローだって事を教えてやればだな――俺が悪かった。そんな目で見るなよ」


 案の定、アホな事を言い始めた二郎を思い切り睨みつけてやれば、俺の視線に気づいてすぐに謝罪し始める。


「それよりも話の続きだ。お前がヒーローと知り合いとでも言っておけば委員長と仲良くなれるかもしれないだろ?」


 ……まだこの話を続けるつもりか。


「嘘をついてまで仲良くなるとか、馬鹿々々しい。俺はそんな目的の為にヒーローを目指しているんじゃない。……それに、今は恋愛とか興味ないから」


 女の子にもてる為とか、そんなふざけた理由で危険なヒーローを目指している訳ではないのだ。

 ……そりゃ俺だって、モテないよりはモテた方が良いとは思うけど。


「というか二郎、お前が俺……ヒーローの知り合いだって言って、委員長に近づけばいいじゃないか。嘘は言ってないだろ? ……正体さえ話さなきゃ、構わないぜ」


「それじゃあお前をダシにしてるみたいで気が引けるから、遠慮しとくよ」


 ……妙な所で真面目な奴だな。


「さて、もう聞きたいことは無いよな? とにかく、俺がヒーローをやっている事は誰にも言うなよ」


「わかってるよ。……で? これからどうする?」


「どうするって……そろそろ退出時間だしな。俺はこれからパトロールだ。昨日みたいに事件が発生するかもしれないからな。お前は気を付けて帰れよ」


 もう話すことは無いし、今日のお仕事をこなすべく立ち上がる。

 とりあえず、二郎への口止めは完了した。

 コイツはお調子者でいい加減だが、信頼はできる奴だ。

 自分から誰かに喋る事はない筈だ、多分。

 ……うっかり口を滑らせたりしないか不安になってきた。


「そうじゃなくてさ、俺は何をやればいいか聞いてるんだよ」


 ……俺の耳がおかしくなったのだろうか? コイツ、とんでもない事を口走った気がするぞ。


「いや、さっさと帰ればいいだろ? それ以外にする事なんて――」


「お前のサポートだよ。ヒーローにはサポーターが付きものだろ?」


 二郎の言葉を聞いて、思わず頭を抱えそうになるのを何とか堪える。

 ……面倒な事を考えやがる。


「……気持ちだけ受け取っておく。俺は今まで一人でやってきたし、何の能力もない一般人のお前にできる事なんて限られてるだろ? 何より、危険だ」


 よし、今の断り方なら角が立たない筈だ。

 出来る事なら、他人を巻き込むのは御免被る。


「俺の事が心配なのはわかるが安心しろ。俺だって危険な事に首を突っ込む気はない」


「別にお前の心配をしてる訳じゃない。……というか仮に俺がサポートを許可したとして、どうやってサポートするつもりなんだよ? パトロール中の俺の近くにいたら、どうやっても危険な目にあうぞ」


「情報だよ。ヒーローとしてどう活動してるか聞いた時に、自分で事件発生の情報を集めてから現場に向かうって言ってたろ?」


 ……そういえば、カラオケボックスに着いてから根掘り葉掘り聞かれた時に、そんな事も話した気がする。


「情報を集めるのも時間がかかるし、悪党どもと戦っている間は情報収取もできないだろ? 俺が代わりに情報収集をして、お前に伝えるんだよ。そうすれば、ヒーローとしてもっと活躍できると思わないか?」


 ……確かにバイクによる移動中は、ラジオやスマホから流れる音声でしか情報の内容を把握できない。

 入手した情報を精査するには、バイクをどこかに駐車してからでないと行えない。

 二郎の言う事にも一理あるかもしれないな。


「もしも俺が役に立てなかったら、すぐにサポートを辞めさせてくれて構わない。だから、お前を手伝わせてくれよ」


 そう言って俺の事を見つめてくる二郎の目は普段のおちゃらけた物とは違い、真剣そのものだった。


「……わかった。そこまで言うならサポートしてもらおうじゃないか。ただし、俺が辞めろといったらすぐに――」


「よっしゃぁ!」


 俺の言葉を聞き終えるより早く、二郎はガッツポーズを作り短い、雄叫びを上げる。


「お、おい。人の話を最後まで――」


「そうと決まったらお前に連絡する手段が必要だな。少し時間がかかるから、今日は一人でパトロールしといてくれ。それじゃ、また明日学校でな」


 そう言って部屋から飛び出す二郎の背中を、呆然としながら見送る。

 ……アイツ、支払いを俺に任せるつもりなのか……?




 その翌日、二郎にカラオケ代を請求した際に一緒に渡されたマイクとスピーカーをヘルメットに組み込み、二郎とのコンビでヒーロー活動を行う事になった。

 最初はどうなる事かと思ったが、二郎が予想外に頑張ってくれた事で以前よりも効率よく活躍できるようにはなった。

 ヒーローを目指している事がバレた時、最初はどうなるかと思ったが結果的に良い方向に転がったのは結果オーライといったところか。


「そろそろ現場に到着する。Jは指示がないかぎり、引き続き情報収集を頼む」


『了解S。……気を付けろよ』


 通信機での連絡中は、お互いをイニシャルで呼ぶように決めた。

 正体がバレる要因はなるべく排除する必要がある。

 この間みたいに迂闊な事をして、正体がバレる訳にはいかない。


「さて、このコンビニか……」


 現場に到着した俺はバイクから降りた後、いつものようにバイクを圧縮してからケースに収めてスーツのポケットに入れる。

 ……静かすぎやしないか?

 普通なら強盗や店員の声が聞こえてきても、おかしくない筈だ。

 不審に思いながらコンビニに近づいてみると、店内に人影が一切見当たらない。

 この状況に不信感を強め、周囲を警戒するように見渡す。

 ……すっかり暗くなった事もあり人の気配はないが、物音一つしないのは不気味すぎる。

 その時だった、耳を覆いたくなるような大声が響き、強い衝撃によって膝を着いてしまう。


「ぐっ……。一体何が――」


「待ってたぜ、ヒーロー!」


 状況を把握しようとする俺を、どこかから現れた男が蹴飛ばしてくる。

 地面を転がされる痛みに耐えて立ち上がり、男の姿を見据える。

 ……首から下を夜間では視認性の低くなる黒の戦闘服で覆い、顔の下半分を見た事の無い金属製のマスクで覆った大男が、俺を憎らしそうに睨みつけていた。


「以前テメエにやられた借りを、返しに来たぜ……」


 こいつは確か、スピネと組んでた大男か!

 ……面倒な奴に目をつけられてしまったな。


『おいS!? どうした! 何があった!』


「……厄介な奴が出てきた。一度通信を切る」


『お、おい――』


 まだ何か言いたげな二郎を無視し、通信を切る。

 戦いに集中しなければ、足元を掬われてしまう。


「大人しく刑務所で更生してればいいのに。それで? お前も糸川みたいにコードネームがあるんだろ?」


「よくわかったな。俺のコードネームは『フレーダー』。お前にやられた俺はもういねえ。俺は生まれ変わったんだ!」


 フレーダーと名乗った池羽は雄叫びを上げ、自身の超能力である超音波を俺に向けて放つ。

 以前戦った時よりも威力を増した超音波の衝撃に、俺は再び膝をついてしまう。


「このっ……」


 幸いな事に俺達以外に人影は無い。

 接近される事を防ぐべく、炎の壁を周囲に展開する。


「その程度の炎!」


 しかし、フレーダーは炎の壁をものともせずに突っ込んできて、拳を振り下ろした。

 俺は咄嗟に飛び退き、何とか拳を躱す。

 ……火傷するのを恐れずに突っ込んでくるとは。


「生まれ変わったと言ったはずだ! このスーツはお前に対して有利に立ち回れるように、火に強い素材で出来ている。そして、このマスクは俺の超音波を何倍にも増幅させる!」


 その言葉と共に、再び俺に向けて超音波を発する。

 ……そう何度も、同じ手を喰らう訳にはいかない。

 超音波による衝撃の範囲から逃れるために側面へと飛び退くと、背後にあったコンビニのガラスが衝撃波によって砕け散り、店内にガラス片が散乱する。

 ……この威力、奴が馬鹿正直に説明していた事は本当らしい。


「……やられてばかりじゃ、駄目だよな!」


 ジェット噴射を使って駆け出し、拳を振るう。

 奴の超音波相手では距離が空いているよりは、近づいていたほうが有利に立ち回れる筈だ。


「俺は頭を使うしか能が無い糸川とは違うぜ!」


 俺が振るった拳は、フレーダーに容易く受け止められてしまう。

 カウンターとして放たれた膝蹴りを空いている手で受け流すと、フレーダーと離れすぎないように気を付けながら飛び退き距離を取る。

 ……格闘戦に持ち込んでもこちらが有利とは言い切れない辺り、スピネを頭だけと言い切るだけの事はあるな。


「まだまだ!」


 しかし、遠距離では俺が不利になるのは分かり切っている。

 格闘戦で仕留めるしかない。


「こいつを喰らえ!」


 地面を蹴ると同時に脚を上げ、靴裏からジェットを噴射しフレーダー目掛けて勢いよく回し蹴りを放った。

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