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3話‐2

 スピネを倒した後。

 人気の無い路地裏でスーツから制服に着替えようとしていたら二郎に目撃されてしまった所から話を始めよう。

 慌ててヘルメットを身に付けて正体を隠そうとするが、時すでに遅し。


「……マジかよ。ショウ、お前がヒーローだったなんて……」


 呆然をした様子で二郎が呟く。

 ……まずいまずいまずい!

 何とかして、誤魔化さないと!

 ……こんな所で、俺がヒーローを目指して日夜活動しているとバレる訳にはいかないんだ。


「……な、何の事かな? ショ、ショウ? 一体誰の事だい? 俺……ぼ、僕は、ただの名もないヒーローを目指している男。君の知り合いなんかじゃ――」


「いや、正体隠そうとしても、もう無理だよ。慌ててヘルメットを被りなおしてたけど、もう顔を見ちまった。……というか『僕』ってなんだ? お前、そんな話し方をする柄じゃないだろ? ……無理すんなよ」


「あああァァァ!」


 駄目だ、誤魔化しようがない。

 頭を抱えてその場に蹲る。

 どうしてこうなった。

 いや、そんなの俺が迂闊だっただけなのだが、今はそんな事は重要じゃない。

 どうにかして、この状況を切り抜けなければ。

 ……その為には、手段を選んでいる場合じゃない。


「お、おい。大丈夫か?」


 暫く悩んでから覚悟を決めて立ち上がった俺を、これから何が起こるのか知らない二郎は心配してくれる。

 彼の気遣いを有難く感じると同時に、これからやる事への申し訳なさを感じてしまう。


「……全然大丈夫じゃないな。とりあえず、これからお前を思い切りぶん殴る。そうすれば今見た記憶が消えるかもしれないからな」


 もうどうしようも無いし、記憶喪失チャレンジワンチャンに賭ける事にした。

 拳を鳴らしながら近づいていく俺の様子を見た二郎は、慌てた様子で後ずさる。


「おい、逃げるな。一瞬で終わらせてやるから、そんなに痛くしないから」


「ま、待て待て! 落ち着け! 別に他言しねえよ! というか、そんなにって事は結局痛いんじゃねえか! ……ジャーナリストとして……いや、友人として色々と聞きたい事はあるけど、とりあえず着替えようぜ。他に人が来ないか見張っておいてやるから」


「……逃げるなよ?」


 二郎が俺の言葉に頷くのを確認すると、手早く制服へと着替える。

 ……とりあえず、記憶喪失させるのは保留だな。


「もう大丈夫だ……俺も大分落ち着いた。いきなり殴ったりしないから、とりあえず逃げようとすんなよ」


 スーツを片付けた後で二郎に近づこうとするが、近づいた分だけ二郎は後ずさる。


「本当か? 本当に何もしないんだよな……?」


「……お前が今見た事を他言しないって約束できるならな」


 俺の言葉を聞いた二郎は、恐る恐るといった様子で近づいてくる。

 とりあえず、信用してもらえたようだ。


「それにしても二郎、何でお前がこんな所にいるんだ? 路地裏に入る前に周囲の確認はしたはずなのに……」


「駅前で事件が起きているって知って野次馬に向かおうとしたんだけどさ、向かう途中で事件解決したから大人しく帰ろうとしてたんだよ。そうしたら、最近ニュースで報道されているヒーローが路地裏に入っていく姿を見かけたんだ。しかも、俺が一押ししているヒーローだ。そりゃあ、隠れて後を付けるしかないだろ」


 ……マジか。

 二郎にすら後を付けられるなんて、大分用心が足りなかったな……。


「よしわかった。次からはもっと尾行に気を付ける事にするよ。それじゃあまた明日―――」


「ちょっと待てよ。俺の方も色々と聞きたい事があるんだ。正体がバレちまったんだからさ。ちょっとくらい質問してもいいだろ?」


 話を切り上げて帰ろうとする俺を、二郎は呼び止める。

 ……やっぱりそうくるか。


「すまん、今日は忙しいんだ。スーツの修理をしないといけない。明日、必ず話すから今日は勘弁してくれ」


「……わかった。明日は根掘り葉掘り聞いてやるから、覚悟しとけよ」


 そう言い残すと、二郎は路地裏の入り口に向かって歩き始める。

 ……意外だな。

 二郎の性格ならもっと食い下がってくると思っていたんだが。


「……どうせ、俺がこの場で話を聞こうとしない事がおかしいって思ってんだろ?」


 二郎は動こうとしない俺を振り返って言い放つ。


「いや、そんな事は――」


「俺だって、必要なら空気位は読むぜ? それに、お前も正体がバレて冷静じゃないだろうしな」


 ……まさか二郎に気を使われてしまうとは。


「すまん。俺、お前の事を誤解してたよ」


「気にすんな。お前がヒーローだったっていう事実に興奮して、正常な判断ができなくなってるだけだ。仮に冷静だったら、この場で質問攻めにしてるよ」


 ……普通は逆なんじゃないのか?

 そんなことを考えながら、二郎と別れてようやく帰路につく事になった。


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