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2話‐5

「チッ、まだ立ち上がってくるか。やっぱこんなピストルじゃ駄目だな。やっぱこいつに限るぜ!」


 スピネは舌打ちすると手に持っていたピストルを投げ捨て、俺に向けて糸弾を放つ。

 ……この攻撃は避けられないな。

 もし俺が避けてしまったら、背後の警官……叔父さん達に当たってしまう。

 ……避けられないとはいったが、対処できない訳ではない。

 即座に点火装置を起動させると、発生させた火花を燃え上がらせて拳に纏わせる。


「オラァ!」


 雄叫びとを上げると同時に迫る糸弾を地面に殴り落とし、スピネ目指して一気呵成に駆け抜ける。


「早――!?」


「これでも喰らえ!」


 スピネに肉薄すると、炎を消した拳で殴りつける。

 俺の拳を回避できずに受けとめてしまったスピネは怯み、反撃する事なく後ずさる。

 ……よし、格闘戦なら俺が有利。

 それなら話は早い。

 反撃を与える間も無く、攻撃を仕掛け続ければいいだけだ。


「くっ……。近づかれると不味いな」


 何度か殴りつけられて自身の不利を悟ったスピネは、建物の壁に向け糸を射出して高所への逃走を試む。


「逃がすか!」


 ギャラリーが多いこの状態、遠距離戦に持ち込まれてしまえば安易に回避出来ない以上スピネに分があるだろう。

 スピネの逃走を阻止するべく、腕を伸ばして殴りつけようとする。

 ……しかし、振り抜いた拳は後一歩というところで届かず空を切ってしまう。


「今度はこっちの番だ!」


 スピネがそう叫ぶと同時に、奴の腕から糸弾が放たれる。

 高所から放たれた糸弾を避け、少しでもスピネに近づくべく駆け出す。

 しかし、俺の様子を察したスピネは糸を使って反対側の壁へと素早く逃げだしてしまう。

 ……白昼堂々と犯行に及んでた癖に、こういうところは慎重になりやがって。


「この野郎、ちょこまかと……」


 奴が腕に着けている糸の射出器、アレが本当に厄介だ。

 ……二人がかりで俺一人に倒されていた奴を相手に、ここまで苦戦させられるなんて思ってもみなかった。

 もし二人で来られていたら、もっと不味い事態になっていたかもしれない。

 ……そういえば、何故二人で襲ってこないんだ?


「……そういえば、もう一人のお男はどこにいった? お前が脱獄したって事は、アイツも多分一緒に脱獄してるよな? お前ら、組んでいたんじゃないのか?」


 時間稼ぎも兼ねて頭に浮かんだ疑問を口にした瞬間だった。

 それまで軽薄そうに笑っていたスピネの表情が、一瞬にして引き攣ったものへと変化する。


「あんな奴の事なんかどうでもいいだろ! どうせお前は俺に倒されるんだからよぉ!」


 何だかよくわからんが、どうやら俺は地雷を踏んでしまったらしい。

 スピネは怒りの感情を隠そうともせずに、俺に飛び掛かってくるが。

 よし、もっと煽って冷静さを失わせてやる事にするか


「もしかして喧嘩でもしてた? 触れられたくない事だったあああぁぁぁ!?」


 頭に血が昇った状態での単調な攻撃を躱すことなど、造作も無かった。

 しかし、スピネの方に振り向こうとした時に俺は体の自由を失い、勢いよく引っ張られてしまい思わず叫び声を上げてしまう。

 ……先程の攻撃の際、俺に悟られないように糸を貼り付けられていたのか!

 その糸によって俺の身体は引っ張られ、スピネのいる場所まで勢いよく引き寄せられる。

 身体に張り付いた糸を焼き切ろうとするが、スピネはそれよりも早く手繰り寄せた俺を蹴り飛ばす。


「ガッ……」


 受け身をとれずに蹴られて地面に叩きつけられた俺は、痛みに呻き声をあげてしまう。

 ……俺の着ているスーツは自身の超能力に合わせて耐燃焼性で且つ、動きやすい素材で作っている。

 動きやすく、そして自身の超能力を十全に発揮できるように作ったこのスーツは、残念ながら防御面においてはあまり優れているとはいえなかった。


「池羽の馬鹿なんて必要ないね! 頭脳担当だった俺が力を手に入れたんだ! だったらお前の相手なんて俺一人で充分なんだ! 俺は強いんだよ」


 なんとか立ち上がろうとする俺にスピネの怒声が聞こえると共に、迫る糸弾が視界に映る。

 超能力で防ぐのは間に合わないと考え、咄嗟に左腕を前に出して自分の身を守る。

 スーツの両腕には、点火装置の制御部が仕込んである。

 単純な仕組みの装置だが重要な部分で、それ故に防御面に不安のある俺のスーツの中ではヘルメットに次いで頑丈に作った部分だ。


「うわっ!」


 ……それでも、あまり頑丈でない事には変わりない。

 糸弾が制御部を覆っているカバーに突き刺さった後、腕に衝撃が伝わると同時に火花が散る。


「クソッ! 壊れたか!」


 左手にある点火ボタンを押すが、点火部から火花を散る事は無かった。

 ……大きなダメージこそ無かったが、此方の手の内が減らされただけで終わる訳にはいかない。

 残った右手の点火装置を起動させ、拳に炎を宿す。


「この!」


 スピネの元へ引き戻されようとしている糸弾を掴むと、急速に加熱して溶かし尽くしてやる。


「どうだ! これでコイツは使えないな!」


 好機と判断し再び攻撃を仕掛ける為に、スピネへと目掛けて走り始める。

 しかし、俺が近づくよりも早くスピネは高所へと逃げ出してしまう。


「糸弾が破壊されたって問題無い! こうすればいいんだ!」


 そう言うとスピネは、いつの間にか拾っていた小石を投げつけてくる。


「このっ……姑息な手を!」


 この程度で怯んでいる訳にはいかない。

 飛来する小石を払いのけて反撃のに移ろうとするが、気がつくとスピネは俺の目の前まで近づいていた。


「こいつでどうだぁ!」


 不意に放たれたスピネの蹴りを、上体を逸らす事で何とか躱す事には成功する。

 しかし、すぐさま反撃に移ろうとするがスピネは素早く距離をとっており、反撃に移る事もままならない。

 ……先に警官達を解放し、戦いやすい状態を整えるべきか?

 そう考えながら、警官達が拘束されていた場所を横目で見る。


「……え?」


 ……警官達がいなくなっている!?

 一体、いつの間に?


「ヒーローさん! 貴方が悪人の注意を引き付けている間に警察の人達は解放しました! 周囲の人達の避難もほとんど完了しているので、思い切り戦ってください!」


 呆気にとられた俺の耳へと、戦闘が行われているこの場には到底似つかわしくない少女の声が届いた。

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