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2話-4

 道中の人気の無い場所でスーツに着替え、ヘルメットを装着。

 バイクに後付けしたホログラム発生装置を起動し、バイクの外装とナンバーを変更して正体を隠してから駅前に駆けつけた俺は目にする。

 巻き込まれないように逃げ惑う人々。

 危機管理能力が足りないのか、呑気にスマホで写真を撮っている野次馬。

 人質をとられて抵抗ができなかったのであろう、糸によって拘束された警察官達。

 ……そして、街灯の上から小学生くらいの少年を腕に抱えたスピネが俺を見下ろしていた。


「ようやく来たか。待ちくたびれたぜ」


「こっちにも用事があるんだ。お前以外にも相手しなくちゃならない奴らはそこら中にいるんでね。……そんな事より、人質に手を出してないだろうな?」


 バイクをケースに収納しながら、スピネの腕の中でぐったりとしている人質の様子を伺う。

 ……まずは人質を救出する事を考えろ。

 スピネと戦うのは、その後だ。


「心配すんな、人質は無事だぜ。捕まえた時に泣きわめいて煩かったから、ちょっと黙らせただけだ。人質に極力危害を加えないよう、命令もされてるしな」


 ……黙らせている時点で、無事ではない気がする。

 とはいえ、人質に大事の無い事がわかり内心ホッと胸を撫でおろすが、奴の手の内にある以上は未だに気を抜けない。


「おい、お望み通り来てやったんだから早く人質を解放しろ」


「そんなに焦んなよ。今解放してやるから、しっかり受け取りな!」


 スピネはそう言い放つと共に、俺に向けて人質を放り投げてくる。

 ……しかし、腕力が足りなかったのだろうか?

 俺のいる場所まで人質は届きそうには無い。


「ふざけんな!」


 思わず悪態を叫びながらも、人質に向けて駆け出し、滑り込む。


「馬鹿野郎! 何てことしやがる」


 ……間一髪、寸でのところで人質を受け止める事に成功するが、大きな隙が出来てしまう。

 人質の無事に安堵したのも束の間、足首に違和感を感じて視線を向けると、糸が貼りついているのが見える。


「馬鹿野郎だって? 俺は悪党だぜ。只で解放してやるわけねえだろ!」


 その言葉と共に足首の糸が引っ張られ、俺はスピネの方へと引き寄せられてしまう。

 このままじゃまずい、人質だけでも解放しないと。

 地面と体が擦れる痛みに耐えながら何とか人質を地面に降ろすが、俺は抵抗できずに引きずられる。

 そして、そのままスピネの真下で逆さづりにされてしまう。


「このまま頭から地面に落として――」


「させるか!」


 両掌の着火ボタンを押して、火花を散らす。

 本当に小さな火花だが、俺にはこれだけで充分。

 火花を操り、背中で爆破させると、爆発の衝撃で上体を起こしながらその勢いで正面に見えたスピネを殴りつける。


「ぐぇ……」


 情けない声と共に地面に落下するスピネを掴みつつ、足に付着した糸を焼き切って着地。


「もう一発だ!」


 スピネから手を放すと同時に再び殴りつける。

 ……これで少しは時間が稼げるはずだ。

 殴られた勢いで仰向けに倒れるスピネを一瞥してから、地面で倒れている人質を抱えて拘束された警察官達の元へ走る。


「あんた達、大丈夫か? 今解放してや――!?」


「……すまない。我々なら大丈夫だ。それよりも人質を安全な場所へ運んでくれ」


 ……マジかよ、叔父さんじゃないか。

 思わぬ場所、思わぬ状況で見知った顔と出会ってしまった事で一瞬だが思考がフリーズしてしまう。

 ……いや、今は困惑している場合じゃない。


「そ、それはあんた達でやってくれ。俺は奴の相手をしないといけない」


 ……俺の火を操る能力は、非常に強力。

 それ故に使い方を誤ってしまえば危険な力でもある。

 俺自身は熱いくらいで火傷はしないが、他の人達はそうもいかない。

 もしも周囲の人間を巻き込んでしまった場合、その被害は非常に大きくなってしまう。

 先程の様な緊急時でもない限り、派手な攻撃はできるだけ避けておきたい。

 スピネが起き上がってくる前に、邪魔なギャラリーを叔父さん達が安全な場所に避難させてくれないと困るのだ。

 叔父さん達を拘束している糸を解く為に、身を屈める。


「……駄目だな。解けないし切れそうにもない。……仕方ない、ちょっと熱いかもしれないけど、我慢してくれよ」


「待ってくれ何をするつもり――危ない!」


「! しまっ――」


 糸を焼き切ろうとした時、叔父さんが声を上げて俺に何かを警告する。

 警告に反応して顔を上げようとした瞬間にスピネの姿が視界に映った後、強い衝撃と痛みで地面に倒れこんでしまう。


「ハハハハハハ! 油断したな!」


 いつの間にか起き上がって、小物全開な高笑いをするスピネ。

 その手には、拘束した際に警官から奪い取ったであろう警察仕様のエナジーピストルが握られており、その銃口は俺に向けられていた。

 人を殺せる威力は出ないようにセーフティがかけられている警察用のピストルだが、それでも犯罪者相手に使う武器だ。

 中々に痛い。


「……もう少し、倒れといてくれたら良かったのにな」


 ……あとちょっとで警官を解放できそうだったが、仕方ない。

 痛みの残る躰に鞭を打ってすぐさま立ち上がると、スピネに向かって駆け出した。

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