産声1
人の形をしたモノが嫌いな時期があった。
小学校四年生。秋が終わりを告げる頃。
私の両親は至って普通で、客観的に見ても平凡な家庭。そんな環境で私は育った。
つまり、純粋さを置き去りにしたのは私の意思だったことに間違いはない。
十歳の私は、とにかく嫌で。親戚や知人、近所の他人、もちろん家族にも愛想を振り撒く。
いい子をあえて演じ、人と接するのを避けた。問題は起こさない。
仲の良い友達もいない。少しは関わりのある同級生もやがては話しかけて来なくなった。
生きながら死んでるような日々。私が選んだ選択。
それでも人間とは不思議なもので、何かで埋めたい気持ちが湧いてくる。
そして。私は狂っているのだと肯定する“あの日”が訪れた。
◇
私が通う学校には、昼間でさえも日差しの入らない場所がある。
飼育小屋の裏手に広がる雑木林。そこは昔からオバケが出るなどの噂があり、薄暗くて生徒は滅多に寄り付かない。孤立している今の私には適した場所。
「…………」
そこで私は残忍な試みをする。
飼育小屋にいた白いウサギを一羽連れ出し、ためらいなく首を絞めて殺した。
残酷だと分かっていても、この時の私は止まらなかった。
感じたのは達成感だと思う、だけどすぐに虚しくなった。
『……私、なにをしてるんだろう』
地面に倒れるウサギを見下ろしながら私は思った。
この瞬間に自覚する。
闇が私に近づいて、私も闇に近づいた。そして私はその身に怪物を宿した。
抵抗してきたウサギの爪で傷つけられた手。その痛みを残留させながら、雑木林を出ようとする。
その時、ようやく私は彼女に見られていたことに気づいたのだ。
「そのウサギさん……死んでるの?」
これが私と西島優子との出会いだった。