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変態の証明。  作者: チラリズム
3/25

変態2


『シスターとか居そうだよね』


 一人の女子生徒が言う。

 この中等部の女子学園は古く、敷地には寄宿舎きしゅくしゃが存在する。

 生徒の中には寮生もいて、どの生徒も多少の上品さが見て取れる。ちょっとしたお嬢様校のようだ。


「西島さん大丈夫かしら。心配ね」


 放課後の職員室で、担任の教師は愛花に向かってそう言った。


「はい……」


 生徒会の活動の後、プリント整理の手伝いを頼まれた愛花は、手際よく終わらせて席を立つ。


荒樫あらかし先生。終わりました」

「はい、ご苦労様。ありがとう黒原さん」


 そばかすが特徴的な三年生担任の荒樫先生は、彼女に笑顔を向けて感謝の言葉をかける。

 いえ、と呟いて愛花は職員室をあとにした。



 空は茜色あかねいろに染まっていた。

 通い慣れた道を外れ、最寄りの駅からも離れる。

 滅多に寄り道をして帰る事がなかった彼女だが、そのマンションには迷うことなく行き着いた。

 林マンション。七階。

 エレベーターから降り、七○三号室の玄関の前でチャイムを鳴らす。

 しばらくして、勢いよく戸が開いた。


「あら、久しぶりね。家に来るの初めてじゃない?」

「お久しぶりです……あの、優子さん居ますか?」


 愛花を出迎えたのは優子の母親だった。

 彼女は愛花の事を以前から知っているようで、親しんだ口調で話しかける。

 見舞いに来たことを告げると、母親は快く家の中へ迎え入れた。


「わざわざありがとうね黒原さん。あの子喜ぶわ、待ってて、今お茶持ってくから」

「……お構いなく」


 優子の部屋へ案内しながら母親は一度二度、声をあげて優子を呼んだが返事はない。

 部屋の前で母親は再び「お茶いいの?」と尋ねたが、愛花はキッパリと断った。

 ――味気ない。

 愛花は思った。

 まず部屋の中に入ると、明かりが付いていない事に気づき、カーテンも閉められていた。

 そして女の子の部屋にしては少々殺風景である。

 かろうじて桃色の可愛いらしいクッションがあるくらいで、机の上にも教科書やノートが置かれているだけ。

 愛花は母親が居間に向かう足音を確認すると、ゆっくりと扉を閉めた。


「…………」


 不気味な沈黙――。

 親には風邪と言ってあるのだろう。

 掛け布団で自分を包むようにしてベッドの上に座り込み、優子はその姿を見せようとしない。

 警戒しているのか声も聞こえない。

 ようやく口を開いたのは愛花だった。


「私……嬉しかったの」

「?」


 その声に“怯え”、優子の頭が少しだけ動く。

 それによって掛け布団からは彼女の薄茶色のショートボブが確認できるようになった。


「だってね、“私の優子にまた会えたのだから”」


 突然吹いた春の風が、部屋の窓を強く叩いた。

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