証明2
……ひび割れた風景。
鳥かごに入れられたあなた。
でも安心して。私が解き放ってあげるから。
◇
優子が入院して三日が経ち、二学期を明日に控えていた。
その夜。愛花の姿は面会時間をとうに過ぎた優子のいる病室にあった。
病院には看護師と寝静まった患者が数名いたが、今夜は一際静かで暗い廊下には人気がなく、偶然が重なった結果、彼女の侵入を許してしまったのだ。
後悔はない。尊厳を保てていない。不安定で完璧な愛花は、ベットの上で眠る優子を見下ろす。
「ねぇ優子。二人でどこか遠くへ行きましょう」
悪戯をした少女のように無邪気に笑う。
「……優子。一緒に死んでくれる?」
彼女の声が二人きりの病院によく響いた。
いつ戻るかも分からない優子の記憶。
黒原愛花は我慢しない。ゆっくり壊れるなんてもう待てない。
その時。優子は目を覚まし、ゆっくりと体を起こす。
すぐに誰かがいることには気づいたのだが、眼鏡は駅のホームでの一件で壊れてしまったため手元にはなく、すぐには判断できないでいる。
「……く、黒原さんなの?」
「…………」
「どうして、ここに?」
怒りとも悲しみともわからない感情が込み上げる。今の彼女を否定し、優子ではない“優子”の首を力一杯に絞めながらベットに押し倒した。
「黙れ! お前じゃない。お前なんかいらない!」
あの時の、保健室での時とは明らかに違う純粋な殺意。
ギシギシとベットは何度も音をたて、助けを求めてナースコールに手を伸ばす優子を妨げ、殺すことだけに集中する。
「お前は私の気持ちを踏みにじった。優子は私の側にいなきゃダメなのよ! 返しなさい!」
「やめ、て……死にたくない!」
「返して!」
そして彼女も姿を現した。どこからともなく、ウサギの被り物をした“愛花”がソレを見て囁く。
『口先だけなら誰だって恋をするわ。愛しているなら殺して。首の骨が軋む音、命を乞う声、絶望し、生にしがみつき、もがき苦しむ彼女の姿を』
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