虚無2
午後からは雨が降ると予報されていた。
いつもより速く流れて見える雲。その雲が瞬く間に空を覆い尽くし、灰色の空へと変わっていく。
彼女は重い足取りで病院の、優子のいる病室へと向かう。
“優子”がいる病室へ。
「…………」
あれから。駅のホームで起きた出来事は、異変に気付いた駅員によって優子は迅速に引き上げられ、最悪の事態は免れた。
しかし、病院に運ばれた優子の意識はまだ戻っておらず、面会も出来ないのだろう、彼女がいる病室だと思われる扉の前に四人の姿があった。
優子の母親と。
「あなた達……」
「……黒原さん、……あの」
愛華は断腸の思いで拳を握りしめ声を押し殺す。
本当は怒りに身を任せ、彼女達を攻め立てるつもりでいたが、何故かそんな気力すら失われていた。今はただ優子のことが心配でならなかったのだ。
◇
病室の扉の前で佇む愛花。
時間も経ち、日も暮れはじめる。東達の姿はない。
外は日没と同時にみるみる分厚い雲が広がりはじめた。
何度か主治医と看護師達の出入りの後、病室から出てきた主治医が母親と愛花を呼び入れる。
「……優子」
ベットの上で上半身を起こしていた優子の頭部には包帯が巻かれていた。
愛花の呼び掛けに反応した優子は虚ろな眼差しと、かすれる声で言葉を発する。
「■■■■■■……」
彼女の一言に二人は言葉を失う。
愛花の視点は定まらず。“脳が燃え”。“内蔵が焦げた”。
【ダレデスカ?……】




