虚無1
戻ることは諦めてください。
◇
『ねぇ、西島さんじゃない? あれ?』
『本当だ。どこに行くのかな?』
『……最近あの子、黒原さんと仲いいわよね』
『そう?』
『気に入らないわ。なんだかスゴく気に入らない……』
◇
もうすぐ二学期が始まろうとしていた。
ここ数日は快晴で風も心地がよかったのだが、今日は朝から生憎の曇り空。
最寄りの駅のホームで一人の女の子が立っている。周囲には誰も見当たらない。
西島優子。彼女は黒原愛花に会いに行くため電車を待っていた。
時折寂しい風が吹き、彼女は辺りを見渡す。
急に木々が激しく揺れ、先程まで無かった人の気配を感じた時にはすでに背中を強く押された後だった。
「…………?」
身体が宙に浮く。いや、そう感じたのは一瞬で、後は目に写る全てがゆっくりと感じた。
その身は線路に向かって静かに落ちていく。
優子のクラスメイトでポニーテールが特徴的な東、その友達の天月と山上の姿もある。
優子を突き落としたのは東だった。
彼女はちょっとした悪ふざけのつもりで優子を線路に突き落としたのだろう。その後の行動は速く、すぐに線路に落とした優子に駆け寄り抱き上げる。
優子はというと、落ちた時に頭を強く打ち、眼鏡は外れ、かすれゆく意識の中で瞼はゆっくりと閉じ、身体は動かなくなった。
まだ電車は来ていないが東は叫んだ。
「早く! 早く引き上げて!」
「わ、私達は関係ないから、悪いのは東さんだから!」
「……ッ!」
彼女達がもたつく中、着々と電車は近づいていた。