慈愛2
考えるのが怖い。
愛し合えるこの時が、いつまで続くのか。
考えるのが……怖い。
◇
「本当に大丈夫? 黒原さんはしっかりしてるけど。優子、あまり黒原さんばかりに頼っちゃダメよ」
「だ、大丈夫だよ! 私だって」
林マンション七○三号室の玄関前で優子の母親が心配事を口に出す、もう来年は高校生になることを付け加えて優子は言い返した。
そんな二人を穏やかな瞳で見つめる愛花。
「……優子さん、お借りします」
【夏祭りの時に話した海に行く約束。日曜日にしましょう】
三日前、愛花からきたデートに誘うメール。
優子はいつでもいいように、すでに愛花が喜んでくれそうな新しい水着を用意して今日は朝から楽しみにしていたのだ。
愛花もまた水着の入ったバッグを片手に、二人を見送る優子の母親に見せびらかしながら、腕を絡ませ引っ付き、彼女を奪い去るかのように歩き出した。
◇
「優子、食べる?」
海へ向かうために乗った電車内で、座席を向かい合わせ、お菓子が入った袋の中からガムを取り出して優子に勧める。
しばらく走った電車は目的地が少し都会から離れていることもあり、二人が乗っている車両には他に人がいなくなっていた。
「うん。じゃあ一枚」
そう言って手を差し出した優子だったが、愛花はガムの入った包みを剥がすと自分の口に入れて噛みはじめる。
「――――?」
『クチャクチャ……』
「…………」
優子はすぐにその行動の意図を理解し、愛花と唇を重ねると、そのままガムを自分の口の中に移した。
恋人同士なのだから“当然”の行為である。
「美味しい?」
「うん。愛花ちゃんの味がする」
「……そ。じゃあ私にも優子の味をちょうだい」
唾液とガムの交換を何度か繰り返した後。電車が目的の駅に着くと、二人は電車を降り、改札を抜けて海を目指す。