慈愛1
居場所を守るのをやめ、不条理な社会に唾を吐き掛け、孤独が渦巻く世界に足を踏み入れていれば。
どれほど楽だったことか。
◇
日が暮れはじめた頃、浴衣姿の優子と愛花は、とある駅のホームで待ち合わせをして合流した。
夏休みに入り、二人は夏祭りにやってきたのだ。
「……お待たせ愛花ちゃん」
「さ、行きましょ」
横に並んで歩き出すと、当然のように手を繋ぐ。歩幅を合わせて駅から続く出店を見て回りながら花火大会の会場へと向かう。
二人が会場に着いた時には空も暗くなり、周囲に人が集まって来た。
家族や恋人同士など人混みのなかで、辺りを探るように見渡す優子の姿に愛花は気付く。
「クラスメイトでもいたかしら?」
「あ、ううん。大丈夫。いないよ」
愛花は優子の腕を引っ張り移動する。彼女の不安を除くため、二人きりになるために。
「とっておきの場所があるの」
◇
会場の裏手にある山道をしばらく登り歩いた先に、人気のない平地が姿を現した。そこにたどり着いたと同時に花火が打ち上がり、花が咲く度に周囲が明るく照らされる。
そこで改めてみた優子の浴衣姿に、愛花は淡い微笑みをみせ頬を染めた。
互いに感情を高ぶらせ、熱い抱擁を交わす。
「愛花ちゃん」
「いいでしょ? 我慢できないの」
「ん……」
優子のはだけた浴衣から露出した肩、そこから首筋にかけて軽く舌で濡らしたあとで長いキスをする。
しばらく二人だけの時間を堪能した後。花火を見上げ、軽く汗ばんだ互いの手を強く握りしめながら、早くも次に会う約束を交わした。