狂喜2
彼女は動揺を隠せない。
尿意をもよおし、トイレに行くために部屋を出ようとしたその時。それは“支配者”によって阻まれてしまったからだ。
「えっ、と? 愛花ちゃん?」
「座って優子」
「う……うん」
罪悪感が一切感じられない冷たい彼女の瞳を見て、ゆっくりと座り黙り込む。次第に顔を熱く燃えるかのように、羞恥心が優子を襲う。
オロオロした顔で今にも泣き出しそうな彼女を前に、心の中では欲望をむき出す愛花の束縛がはじまる。
「…………」
沈黙と緊張。
一分と経たないうちに、再び優子は足に力をいれて立ち上がろうとする。
「優子……」
ずっと握られていた手に重みが加わる。
立ち上がることを許してもらえない。
「……あ、あの」
「ジュース。飲んで。ほら、早く」
ことさら優子が発言をするタイミングに追い討ちをかける。
言われたとおりにジュースを飲んだが、その表情には余裕がない。
時間が経ち、少しは温くなっていたとはいえ体は冷える。
こういう状況に慣れておらず、恥ずかしさも相まって、すでに我慢するのが限界に近づいていた。
そんな彼女の髪を撫で、それを見ている愛花。無慈悲な彼女のその悪戯を肌で感じ、判断力を鈍らせながらも高揚感に浸る。
不気味な光景。今、この場にいるのは二人の変態。
「ハァハァハァ……」
敗北者はすでに決まっていた。いや、これが勝負だったとしても、初めから彼女が勝つということはなく、短い時間のなかで愛花が喜ぶ最高の負け様を模索しているだけなのかもしれない。
額に汗をにじませ、徐々に理性が保てなくなるなかで優子は思う。
『ダメなのに。愛花ちゃんはこんな私じゃ満足しない。でも、もうダメ』
「……許して」
優子の口から出たその言葉を愛花は聞き逃さなかった。
おかしくなりそうな自分を必死におさえる彼女を愛花は背筋をゾクゾクさせながら黙視する。高鳴る胸の鼓動と全身が痺れるような感覚。さすがの愛花も興奮を隠せずに軽く顔を歪ませた。
「ーーお願い愛花ちゃん意地悪しないで!」
悲痛な叫びの後、意識が薄れていくのが見てとれる。
一度天井を見上げる愛花、見下すような視線を優子に向けながら瞳を潤わせ、満足げな表情で大きく息を吐き、落ち着きを取り戻してから答えた。
「ん、わかった。ごめんなさい優子。行っていいわよ」
強く握られていた手が解放され安堵する。
優子の“良さ”を引き出すため、その集中力と精神力には才能すら感じられ、そして何より容赦がない。そう、時と場合と相手によっては彼女は容赦を知らない。
「ーーーー!」
部屋を出ようとした優子の背中に刺さる毒手。
ドアノブに手をかけた優子を愛花は後ろから抱きしめ、彼女の耳元で囁いた。
「なーんて、ウソ。ダーメ……」
瞬間。
優子は下半身に温もりを感じ、それを止めることが出来ず、フローリングの床を濡らしてただ立ち尽くした。
「…………ぁ、は……ぁ」
「あーぁ、ふふっ、優子ったら最低ね」