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変態の証明。  作者: チラリズム
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疑心3



 そんなことはどうでもいいのだ……。


 二人の心が少しずつ闇にむしばまれていようとも、愛し合うことができるのなら、そんなことはどうでもいい事なのだ。



 近道なのか、愛花は黙々と薄暗い路地裏を通り、その足取りも軽い。

 周囲に高いビルはなく、二人が通う学園には寮生もいるので、生徒と出くわす可能性は若干ではあるが低くなる。


 歩くこと数十分。すれ違ったのは杖をついた高齢者が数名、スーツを着た小太りの男性と犬を連れてジョギングをする女性だけ。

 期待と不安を胸に抱きつつ、見慣れない風景に戸惑いながらも、優子は今ある二人の時間が続いていることに幸せを感じていた。


 しばらくして路地裏を抜けると、ちょっとした住宅密集地がある広い道に出た。

『ここって……?』

 先ほどの路地裏には見覚えがなかったが、優子はこの道を知っていた。何度か訪れたことがある。

 こっちよ、と腕を引っ張る愛花。

 たどり着いたのは灰色の屋根、広い庭がある二階建ての一軒家。

 記憶通り。愛花が住んでいる家だった。

 玄関の鍵を開け、ドアを引いて家の中に入ると、小学生の時に何度か遊びに来た時と変わらない間取りに、優子の記憶が鮮明になる。


「お、おじゃまします」

「親。遅くまで帰ってこないから」


 靴を脱いで、廊下から二階に続く階段を上がると、


「……愛花ちゃん?」


 “愛花の部屋”の前を通り過ぎた彼女を優子は呼び止める。


「そこは私の部屋よ、もともとは姉の部屋だったんだけど。こっちよ、こっちが“私だけの部屋”なの……」


 もう一つ、鍵をかけてあった部屋のドアを開けて、首をかしげる優子を中へ招いた。


「――ぁ!」


 その部屋に入った瞬間、優子は驚愕きょうがくして胸を高鳴らす。

 一つの小窓、小さな机と椅子を除いて、その全てに目がいった。



 そこには優子がいたのである。


 ……部屋中の壁にはびっしりと優子の写真が無数に貼られ、中には大きく引き伸ばしたものもある。

 小学生の時に出会った頃の優子から隠し撮りをし続け、様々な優子の姿がそこにはあった。

 床や机の上には彼女を似せて作られた人形もあり、それ以外にもどうやって手に入れたのか、二人の名前を書いた婚姻届もある。


「……すごい。愛花ちゃんが、私だけを見てる」


 立ち尽くす彼女の後ろからそっと抱き締めた愛花は、自分のスマホに保存されている画像を見せる。

 そこにも優子しかいなかった。


「私達の愛に理由がいる?」

「……ううん」

「私のことが怖くなった? 気味が悪いと思った?」

「思わないよ。ありがとう愛花ちゃん、嬉しい」


 優子の不安は消えて無くなり、愛花の求める口付けに素早く応えた。

 舌を入れて絡ませ合うと、二人は同時に膝から崩れ落ちそうになる。

 その時、優子は壁に貼られている写真の中に、薄くなっていて内容が分からないものを数枚見つけた。


「……?」

「あ、あれは、その、ごめんなさい。何度も舐めているうちに……でも大丈夫よ。ちゃんとコピーしたのがあるから」


 後ろめたさから恥じらう愛花に優子の口元が緩んだ。


「ねぇ優子。私お願いがあるの」

「……なに?」


 彼女の体を振り向かせ、優しく微笑む愛花。


「今ね、絵を描いてるの。優子の絵。だから……写生させてくれる?」


「うん。もちろんいいよ。じゃあ私からもお願い」


 そう言うと優子は頬を赤く染めて、少し目を逸らしたまま、自分の首に両手を当てた。


「私の首を絞めてほしいの」


「……優子、…………」

「あれ……すごく、良かったから」


 照れながら見つめてくる彼女に、一匹の怪物は、ただただ目を奪われたのである。

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