疑心2
六年生のある日。
理科室での授業中、一人の女子生徒が威圧的な態度で暴言を吐いている。
その相手は西島優子だった。
一方的に責め立ててくる女子生徒に、優子は黙り込んでしまっている。
理科の実験でグループだった二人。おそらく優子のミスに対して苛立ちを覚えたのだろう。
先生の仲介により騒ぎは無事治まった。
……この時。同じクラスだった黒原愛花は、まだ“友達同士”である優子のことを見ていることしかできなかった。
自分のその手を強く握りしめて、ただ見ていることしかできなかったのである。
◇
「私達のこと……気づかれたかな?」
今にも消えそうな声で優子は呟いた。
曇り空の帰り道。
優子は両手で自分のスカートの裾を集めるようにして握り、俯いたまま愛花の後ろを付いて歩く。
その脳裏に浮かべているのは。教室にいた他の生徒達からの視線だった。
「ごめんなさい愛花ちゃん……私」
「問題ないわよ優子。心配しないで」
自販機の前で愛花は振り返ると、落ち込む彼女の顔を上げさせて微笑んだ。
優子が教室でとった行動。口をついて出た言動。
おそらくそれは……。
「独占欲かしら?」
「…………」
「“保健室”の時とは逆になったわね……ふふっ」
愛花はどこか楽しんでいるように問いかける。
何を思い、何を好み、何に怒るのか。そんな彼女を知るのが愛花は好きだった。
優子の価値観は出会ったあの日から変わらない。
不変的な彼女の態度に優子は素直な気持ちで口にした。
「私のこと、嫌いになった?」
「……?」
呆れた表情で肩をすくめる。これは経験にない。
「どうしてそんなことを言うの? 私達、誓約したじゃない?」
見透かすような瞳で顔を覗き込まれた優子は、今にも泣き出しそうになる。
「よしよし……本当に泣き虫さんね。ダメよ優子」
母が子をなだめるように、愛花は優子を抱き寄せて頭をなでた。
重ねる体。聞こえてくる互いの心臓の鼓動。
今のこの二人に、他の何かが入る隙間なんてない。
「私は優子だけよ。愛してる。誰かに奪われたりなんかしないわ」
「……絶対に?」
「――――!」
「証拠を……証拠を見せてほしいの!」
ため込んでいたものを吐き出すように声を張る優子。
考慮できないくらいの精神状態。
そんな彼女の心境の変化を悟り、そして新たな一面を知れて喜びながら、容易ではなさそうに思えるそれに、愛花は全霊をもって応える。
「いいわ。ついてきて」