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変態の証明。  作者: チラリズム
10/25

二人3


 その怪物は大きな衝撃とともにやってきた。


 揺れる間仕切りカーテン。

 二人だけしかいない保健室には、狂気の香りが満ちていた。

 獲物を狩り始めた愛花は、快楽に溺れるなかでも冷静に、そして確実に彼女の首を絞めていく。

 愛花の腕を掴んだものの、優子の抵抗力は皆無かいむに近い。


「――うぅ! ――あ……くっ!」


 なすすべ無く、もがき苦しむ優子。その姿を見た愛花は感極まり、両腕に体重を乗せてさらに強く首を絞めた。

 呼吸が出来ず、必死に酸素を求める。

 目を細め、涙を流し、口の端からよだれを垂らしだす優子の意識は徐々に薄れていく。

 彼女のもだえる力が弱まるなかで、とうとう愛花の心の叫びが外に漏れ出す。


「優子! 愛してるの。……誰にも、絶対、どこにも!」

「ぁ……いか、ちゃ……ん……」


 かろうじてあえいだ声を聞き、優子が白目をく寸前、優子の姿と“あの時”殺したウサギの姿とが重なって、ようやく愛花の手が止まる。

 首から離れた彼女の手。


「っはぁ、はぁはぁ……」


 優子の首には薄いあざが少しばかり残っていた。


「あぁ……ああぁ。ごめんなさい優子。ごめんなさい」


 乱れる呼吸。

 両手で自分を抱くようにして、彼女は謝り続ける。自己嫌悪じこけんおが止まらない。

 その一方で優子は上体を起こし、何度か咳を繰り返した後に、荒かった呼吸を整え始めた。

 互いに苦しむ姿を見せながら、愛花の“もろさ”を見た優子は心を痛める。

 そして、気づいた時には自然と愛花を抱きしめていた。

 彼女もその身を優子にゆだねて黙ってしまう。


「……愛花ちゃん」


 しばらくして。その胸に顔をうずめながら、少し興奮気味に愛花は口を開いた。


「私のためだけに泣き叫ぶ優子の顔が見たい。声が聞きたい。あなたを壊したい、めちゃくちゃにしたいの。我慢できない」

「……そうだったんだ。うん。大丈夫、大丈夫だから」


 二人は見つめ合う。呼吸を合わせる。


「ゆっくりしよう。愛花ちゃん。一緒に築こう、ゆっくり築こ。二人で、少しずつ壊れよ、私達なら正しく壊れられるよ。大丈夫だよ……ね?」

「うん……うん」


 もう教室にいる生徒達の事はどうでもよくなっていた。

 優子の励ましに、愛花は落ち着きを取り戻す。


「あのね愛花ちゃん。私、愛花ちゃんに押し倒された時、嬉しくて驚いちゃったの。ごめんね」


 涙を拭いた愛花の瞳には“あの時”と変わらない、輝くような天使の笑顔が映っていた。

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