夢診療師と夢喰いバクは悪役令嬢の悪夢を治療する
「実はわたくし悪役令嬢ですの」
僕の元に訪れてきた貴族のご令嬢は、突然とんでもない自己紹介をする。
僕は夢診療師。人の悪夢を治療する医師だ。
「毎晩、悪い夢を見るのです。婚約者に婚約破棄をされ、断罪されて悲惨な末路を辿るという内容ですわ」
なるほど、それは悪夢だ。
「失礼ですが、僕のことはどちらでお聞きになられたのですか?」
「街角にチラシが貼ってありました」
ご令嬢がチラシを見せてくれる。「あなたの悪夢を治療します」というフレーズと、僕の診療所の地図が書いてあった。
こんなことをするのはあいつしかいない。
「エルシー、ちょっとこい」
「あいあい。何? ドクター?」
少女が診療室に入ってくる。この少女エルシーの正体は夢喰いバクだ。悪夢を狩る時に便利なので、助手として雇っている。
「お前、このチラシに見覚えがあるか?」
「私が作った。客寄せ用」
大方、僕のコレクションしている悪夢を喰うのが狙いだろう。夢喰いバクは人間の悪夢が好物だ。エルシーへの報酬は悪夢だからな。
「まあ、いい。では早速治療を始めましょう。そこのベッドに横になってください」
「はい。でもどうするのですか?」
「今から催眠術をかけますので、眠っていただくだけです」
「分かりました」
ご令嬢はベッドに横になる。僕が催眠術をかけると、彼女はすぐに眠り始めた。
「行くぞ。エルシー」
「あい」
エルシーはもふもふの白い夢喰いバクの姿になると、彼女の夢への扉を開く。
夢の中には依頼人のご令嬢と婚約者らしき男ともう1人女がいた。
「君との婚約は破棄する! 君はエリーゼを階段から突き落としたそうではないか。最早嫌がらせではなく、殺人だ! 極刑は免れないぞ」
「何を言っているのですか? わたくしはエリーゼ様を存じあげません!」
修羅場の最中のようだが、観覧する気はない。エリーゼという女は夢魔だ。夢魔は人間の夢の中に巣を作って住んでいる。このままにしておくのは危険だから、この場で狩らせてもらう。
僕は鋭利な刃を持つ大鎌を呼び出す。夢狩り人が使う独特の武器だ。
「その鎌は!? おまえは夢狩り人か!」
今まで男の後ろに隠れていた女が夢魔の正体を現した。女に向かって鎌を振り下ろすと、悲鳴をあげて女は消えた。
また、いいコレクションが増えたな。報酬をいただいた後は、ご令嬢の記憶は消しておこう。
「ドクター。この夢ちょうだい!」
「ダメだ!」
悪夢を見て困っているそこのあなた。夢診療師が悩みを解決します。
1000字の短編って難しいですね。
お読みいただきありがとうございました。