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最悪だ、時計は待ち合わせ時間から20分過ぎた時間を指していた。




昨日の夜、元彼から電話がかかって来た。中学以来の連絡のため、どうしたのかと電話に出た。どうやら一浪して三國大に入学したらしい。


電話が終わったのが4時だったため、仮眠程度にしようと思っていたのにこのザマだ。




簡単に身支度を済ませて下山駅まで全速力で走る。私の姿を見つけたらしい彼は、笑いながら腕時計を指差していた。


「ちょっと、30分遅刻ですけど」


「す、すみません…寝坊しちゃって…」


「よし、香西さんの運転は中止」


「は!?何でですか!」


「遅刻したからに決まってるでしょーが」



わかってる。30分くらい待たせたならそんなこと仕方ない事だ。でも何か…素直に従いたくない。


「むぅ…」





一時間くらい経っただろうか、彼が眠気覚ましのコーヒーを飲みながら尋ねて来た。


「今どこかわかる?」


わかる訳ないじゃないか。ナビをこれでもかというくらい凝視する。


「いや、全然…」


彼がいつものように声を上げて笑った。私は今、別に面白いことを言ったわけでもしたわけでもない。


「何がおかしいんですか」


「え、存在が」


「良いです、もう口きかない」


「ごめんって、変な意味じゃないんだよ」



じゃあどういう意味なんだ。普通彼女に『存在がおかしい』なんて言うだろうか?


いじけること数秒、突然彼が右側の頬を掴んで来た。右頬ばかりが伸びていきそうな気がする。


「むああ!」


全力で彼の手を振り切ったが、かなりひりひりする。頬をさすりながら彼の方を向いた。


「何するんですか!仮にも彼女ですよ!」


「だってー、香西さんドMなんだもん」



そればっかりだ。本気で嫌がってない辺り否定出来ないので、何だか悔しい。






やっと目的地に着いた。助手席で体を伸ばす。


「にょーん」


彼がこっちを向いたのではっとした。美樹ちゃんの口癖が移ってしまっている。


「何、どうしたの」


「いや、着いたなぁって」


彼が頭を撫でながらそうだね、と言った。この甘い雰囲気が私には似付かわしくて何か落ち着かない。



「よし、じゃあ荷物を置いて街を見て回ろうよ」


「そうですね」




彼の後ろについて玄関へと向かうと、優しい笑顔が印象的な女将が私達を待ってくれていた。


「内村様ですね、お待ちしておりました」


「ちょっと街を見て来ます。荷物お預かりして頂いて良いですか?」


「もちろんです、夫婦水入らずでごゆっくり楽しんで来てくださいませ」




思わず彼と目を見合わせた。

夫婦って…私達の事だろうか?つい苦笑してしまった。


「夫婦じゃないですよ」


「あら、これは失礼。では恋人同士でしょうか?」


何だか恥ずかしくて、照れながら答える。


「ええ、まぁ…ねぇ、内村さん?」



彼の方を振り向くと、眉間にしわを寄せて何やら考え事をしている。


「内村さん?どうしたんですか?」


「え?あ、いや、何もない…」




何もないことはないんだろうけど…あえて聞かないでおこう。


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