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「ん…」


彼女の小さな声が聞こえて来た。俺はその隣で彼女の髪を撫でている。



幸いにして今日は仕事が休みのため、家でゆっくり出来る。それを狙っていたと言ってしまえばそれまでだが。




朝のやわらかい日差しが俺達を照らした。彼女は寝息を立てて眠っており、何とも幸せそうな顔をしている。そしてそれを眺めている俺もさぞ幸せな顔をしているだろう。


こんな時間を過ごすのは本当にいつ以来だろうか。心も身体も満たされていく感じがする。




彼女が起きないようにそっと抱き寄せて額にキスをした。


「んん…」


眠り姫は起きてしまうかと思いきや、俺の方に背中を向けて再び眠りに就いた。

込み上げてくる愛しさに、彼女を後ろから抱き締める。


「んー…」


「おはよう」


彼女が眠たそうな顔をしながら少しだけこっちを振り返った。


「おはようございます」


「起こしちゃったね。ゴメンゴメン」


そう言って彼女の頭にこつんと額をつけ、包み込むようにもう一度抱き締めた。彼女のぬくもりとやわらかな匂いが伝わってくる。





結局俺達が身を起こしたのは11時頃だった。さすがにこのコンディションで飯を作って貰うのは申し訳なかったので、彼女を連れて食事に行くことになった。


彼女がだるそうにして助手席に乗り込む。


「大丈夫?」


「大丈夫ですよ」


彼女は笑ったが、それは精一杯の笑顔だとすぐにわかった。彼女のことだ、きっと俺に気遣わせないようにしているのだろう。



彼女のその心遣いには申し訳なさをも感じる。



「やっぱ飯食いに行くのやめよう」


「私なら大丈夫なので」



ホラ来た。彼女は自分自身には配慮しない。だからこそ、こういう時に俺が支えてあげなくては。


「ダメ、ゆっくりしてて。夜ドライブ行けなかったら困るし」


「でもお腹空いたんでしょう?」



すごく心配してるような目で彼女が見つめてきた。10歳も年が下なのに、俺よりもしっかりしている。ここは一つ、頼れる男の姿を見せてやらなければ。


「俺が飯作るよ」




彼女をじっとさせるためとはいえ、とっさに言ったこの言葉にひどく後悔した。普段料理なんてしないから、上手いとか下手とかそんなレベルの話じゃない。


「じゃあお言葉に甘えて…楽しみにしてます」




きっと彼女に言ってしまった同じような言葉は、こんなにも相手にプレッシャーをかけるものだったんだろう。彼女が息絶えないか…心配だ。


せめて買って来ると言っておけば良かったとスーパーの中でつくづく思った。


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