-82-
やっと4日経った、という感じだ。
付き合い始めてから毎日電話しているというのに、直接会うまでのインターバルがかなり辛い。
身仕度をしながら、いつまでもこんな新鮮さが続いていけば良いなと思う。
待ち合わせ時間はいつかと同じ9時。今回はちゃんと寝れたけど、早起きしすぎて結果は結局一緒だった。
そして彼も。まだ20分前だというのに二人とも合流してしまった。
「早くない?」
「そっちこそ」
眠そうにしている彼を見ながら、私もこんな顔してるのかなぁ、なんてぼんやりと考える。
去年、今年はまだ一度もいちごを食べてないので、失礼ながら彼だろうがそうじゃなかろうがすごく楽しみだった。
だというのに、いざビニールハウスに行ってみれば『本日の営業は終了致しました』の札が立っていた。
「最悪…」
文句を言いながらシートベルトを着ける私を横目に彼が少し笑った。
「こんなオチなしでしょう」
「香西さんがいるせいかもよ」
一瞬固まったのち、すごい勢いで彼の方を見た。
「何でですか」
「だってほら、いっつも香西さんがウチに来てた時は天気悪かったじゃん。今日は天気良いからその分」
「失礼な!」
彼は車を発車させてから、わざとらしい口調で残念がった。
「あーあ、いちご食いたかったなぁー」
「…もう何も喋りません」
彼の方を向いていた私は顔を前に向け、ほんの少しだけ頬を膨らませた。すると横から大きな手が伸びて来て、私の右頬を掴んだ。
「ひゃ!むあー!」
一生懸命抵抗した。今、絶対ひどい顔になっている。
そんな顔を見せたくなくて左側を向くと、丁度青信号になったのか、彼が手を話して車を発進させた。
「何するんですか!頬が伸びたらどうしてくれるんですか」
「だっていかにも『掴んでください』と言わんばかりにむくれてたんだもん」
「そんなことないです」
「良いじゃん、香西さんドMなんだから」
「むぅ…」
『そんなことないです』と言えない私はホントにMなのかもしれない。けどここで引き下がったら負けな気がして、彼の左腕をぱしっと叩いた。
「ちょっと、運転中なんですけど」
「知りません」
わざと助手席の外側の景色を眺める。彼は笑い声を上げたあと、軽く息を吐いて話し始めた。
「そういやれんこん料理は作れるようになった?」
「うーん…一応、ね。味の保証はないですけど」
「そうなの?へー」
彼にしては珍しくこのリアクションで終わった。
が、やっぱりそういう終わり方があるわけでもなく、気付けば見覚えのある建物の前に到着していた。
「ここ、どこと思う?」
デジャヴってやつか、なんて思いながら考える。いや、全く同じ質問が以前にも…
「えーっと…家、内村さんの」
なので何となく答えには自信があった。しかしどういうわけか、彼がブーッ、と言った。
「はい、残念。平塚です」
「な、この前は建物を聞いたって言ったじゃないですか!」
「前回と全く同じと思ったら大違いだよ」
意地悪だ。なんて意地悪なんだ。
そんな彼には頑張っても敵わなくて、少しだけうつむいた。
「…ドS」
そんな私をよそに彼は車から下り、手招きして彼の部屋まで私を案内した。




