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初めて彼氏が出来たときはまだ携帯を持ってなかった頃だったから、今みたいに毎日電話がかかってくるのが何だか新鮮で楽しい。


そしてついに今日、卒業検定を合格した。これは着信を待つのではなく、自分から報告したいと思う。




彼がどんな反応をしてくれるかドキドキする。びっくりするだろうか、喜んでくれるだろうか。


彼が電話を取るのにそう時間はかからなかった。


『もしもし?』


「こんばんはー。卒検受かりましたよ!」


『あ、ホントに?おめでとう。

それにしても香西さんが自主経路設計も駐車も合格とか奇跡だね』



何か予想はしていたが…嬉しいような悲しいような、微妙な心境だった。


「ひどっ!私頑張ってたじゃないですか!」


『頑張ってた『けど』、道も覚えれないし、駐車手間取るし』


「むー…誰が教えたと思ってるんですか」


私の反論に彼が大爆笑した。私は別に変な事を言ったつもりは全くないのだが。


「ちょっと、そんなに笑わなくても良いでしょう!」


『だって香西さんマジウケるんだもん』


「私そんな面白い事言ってません」



電話の向こうで彼が軽く息を吐いた。


『それにしてもさ、ホントよく自主経路設計合格したね』


「頑張ったんです」


『おーえらいえらい』


彼は私の気を引くためかどうか知らないけど、棒読みで私を褒めて来た。正直、全然嬉しくない。


「そんな棒読みで褒められても嬉しくないし」


『よくがんばりました』


「無視ですか」


彼は無視ですかって…、と言って笑う。きっと笑い上戸なんだろう。


『はー…ウケるー…』


「むぅ…」


私面白いことなんて一言も言ってないのに。





今までの会話をさかのぼって来て、ふと考えた。付き合い始めた日に呼び方の話をしてたのに、未だに二人ともそれを実行していない。


「ねえねえ、私いつまで香西さんって呼ばれるんですか?」


彼があー、と呟いた。もしかして…


「普通に下の名前で呼ぶのが面白くないからわざと?」


『ご不満ですか薫さま』


やっぱりか。以前彼が『好きな子ってどうしてもいじめたくなっちゃうんだよね』と言っていたのを思い出す。これから私はどんないじられ方をしていくんだろう…。


「当たり前でしょう!何でそこでさま付けなんですか」


『当たり前でしょうって…』


彼の笑いが一向に止まらない。少し抵抗してみたくなって、あることないこと話した。


「良いです、今日教習アンケートの指導が悪かった指導員の所に『内村新一さん 最低でした』って書いたから」


ようやく彼の笑いが止まり、一瞬だけ沈黙が流れた。


『嘘!?ちょ、ま、おい!書かないでって言ったじゃん!』


面白い。こんな素直な反応してくれる人ってそうはいないだろう。

もしかしたら彼も同じ事を考えてるのかもしれないが。


「嘘に決まってるじゃないですか」


『うわ、マジ焦った…』


10歳年上の彼を可愛いと思ったら怒られるだろうか。そんな事を考えながら笑った。


「だって楽しかったですもん、ホントに」




振り返ればあっという間の19時限だった。何度か彼の指導から外れてしまったが…。



すると彼もいつものように落ち着いた雰囲気で話し始めた。


『俺もすっごい楽しかったよ。不器用ながら頑張ってるの伝わって来たし、真面目だから教え甲斐あったし、何より人が良い。バカが付くほどね』


「…そうですか?」


『香西さんが家族からも友達からも先輩からも…みんなに好かれる理由、わかるもん』



すごく嬉しい。嬉しすぎて言葉が出るのに時間がかかるくらいだ。


「そんな今更褒めたって何もあげないですよ」


『よし、じゃあ今度の火曜、お祝いにドライブに行こう。いちご狩りの出来るとこちゃんと見つけたから』


「ホントに!?わぁ、楽しみです」


『香西さんが免許取る前に行かないと…死ぬ目に遭いそう』


「どういう意味ですか」




こんな関係がずっと続けば良いなと思う。


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