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彼女と俺の関係は、昨日から外では指導員と生徒、車の中では恋人になった。


…決して変な意味ではないが。




今日は最後の教習になる。彼氏として会うのはもちろん初めてなわけで、今までになく緊張する。

別にウチは生徒との恋愛はご法度じゃないから、ばれても大して問題はないが…何せ10歳年下の彼女だ。白い目で見られそうな気がする。



早まる気持ちを抑えて配車へと向かった。暖かい春の陽射しに包まれた彼女にはついつい見とれてしまう。


「こんにちは、運転席どうぞ」


「はい、お願いします」



彼女の笑顔につい頬が緩んでしまう。

二人同時に車に乗り込んで、彼女が黙々と発車準備を始めた。落ち着きがない俺は彼女に話し掛けたくてしょうがない。


「薫さま」


俺の言葉に彼女が苦笑した。


「第一声がそれってどうなんですか…」


「えー、何で?」


「…何でもないです」



可愛いなぁ、と思う。ホントに小動物みたいだ。


さっきから惚気っぱなしなのは置いといて、だ。



「よし、じゃあ今日はみきわめだからね」


「はい」


「まあ香西さんなら無理だろうけど」


「どういう意味ですか!」


彼女が反論してくる。


「はー、俺香西さんにかなりひどい事言ってるよね」


「ホントですよ、もー…」


彼氏だとしても、そうじゃなかったとしても、彼女の反応ひとつひとつに笑わせられてしまう。



手間取りつつも頑張って縦列駐車をしている彼女を見つめた。


「香西さんさ、そのキャラって素?」


「は?素ですけど…何で?」


「マジウケるから」


「どの辺が?」


「存在が」


「存在を笑われたの初めてですよ…」


彼女は笑いつつも少しすねてしまった。


「それだけ俺が香西さんを好きって事なんだからさ、そんないじけないでよ」


「むー…」


「仕方ないじゃん、香西さんドMなんだもん」


縦列駐車を終え、場外に出ようとしていた彼女が何か言いたげな感じでこっちを向いた。


「は?」


「香西さんドMじゃん」


「どの辺が」


「全体的に」


答えになってないっていうのはよくわかる。だけどどの辺が、と言われたって細かくは言えない。


「『私をいじってください』ってオーラが出てるもん」


「どんだけなんですか!」



やばい、きちんと指導しなきゃいけないのに、笑いすぎて指導に集中できない。





彼女は最初の頃に比べてかなり余裕が出来たのか、たまに手を動かしつつ話すようになった。

といってもほんの1、2秒だが。


「そういえばバレンタインのお返しは?」


「え?」


「え?」


彼女は俺と全く同じように耳に手をあてた。



もちろんちゃんとお返しは考えている。教習中はさすがに渡せないから、今度のデートの時にでも渡そうと思ってはいるが…


「何の話?」


彼女が小さくむぅ、と言った。


「あーあ、せっかく忙しい時間割いて作ったのになー…」



前チーズケーキをくれた時、彼女は『すぐ出来た』と言っていたが、やっぱり手間がかかってたみたいだ。ちゃんとお返ししないと何だか申し訳ない。


「あれ何か立派だったもん。すっげぇ手が込んでるなって思った。

あれ作るのに相当時間かかったでしょ?」


彼女は左手を軽くひらひらさせて運転を続けていた。


「時間自体は全然かかってませんよ」


「でも凄かったよ、あれ」


「頑張ったんです。だからお返しを」



実はもう買っている。それはまだ言っちゃいけない秘密だ。


そのせいもあって、彼女には意地悪を言ってしまう。


「竹トンボでもあげるよ、手づくりの」


「いりません」




会話に気を取られすぎてたまに加速不良になったり、判断が遅くなったりと大変といえば大変だったが…今日のみきわめは何とか合格だ。


もっともこの先は補助ブレーキがないから、彼女の運転する車には乗りたくないが。


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