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家に帰り着いてベットになだれ込んだ。緊張の糸が切れてぐったりする。



何と呼ぼうか。多分『薫』が普通だが…何か面白くないな。


それはおいおい考えるとして、早速彼女に電話をかけた。コール音がいつ切れるかドキドキする。



『もしもし?』


「こんばんは」


『こんばんはー、お疲れさまです』


彼女の柔らかい声に自然と頬が緩む。




それにしても電話したは良いが特にこれといった話題が見つからず、沈黙が流れている。


『えーっと…どうしたんですか?』


「いや、まあ声が聞きたくなったっていうか…」


何を言ってるんだ、俺は。

そういえば、と思ってさっきあれこれ考えてたことを話してみることにした。


「あのさ、何て呼んだら良い?」


『いや、普通に下の名前で良いでしょう』


「えー、面白くない」


『そこに面白さを求めないでください!』


二人同時に笑った。


『じゃあ私は何て呼んだら良いんですか?』


「下の名前で良いんじゃない?」


『…新一…さん?』


ドキッとした。彼女に名前を呼ばれるなんて…


あれ?



「そういえば俺、香西さんに名指しで呼ばれたことないよね」


『だって先生って呼ぶのか、さん付けで呼ぶのかわからなかったんですもん』


「じゃあ俺のフルネームは?」


『内村新一さん』


覚えててくれたんだ、と思う。指名されてたし、あれだけずっと一緒にいれば知ってて当たり前ではあるが。


「ありがとう、香西薫さま」


『ちょっと、さま付け止めてくださいよ!』


「えー、何で?」


『何ででも!』



思わず大爆笑してしまった。

が、笑い終えたあとに不安に襲われた。


「俺達さ、これから大丈夫かな?」


『ん?何が?』


「だってさ、よくよく考えれば俺と香西さんって10歳離れてるじゃん」


『良いんじゃないですか?世間には30以上年の差がある夫婦だっているし』


「でも俺が40のおっさんの時、香西さんは30でまだ女盛りでしょ?」


『嫌ならご破算にしますか?』



彼女の言葉にかなり焦った。付き合い始めて数時間で破局なんて聞いたことがない。


「っ、いや、そうじゃなくて!

ただ…香西さんはそれで良いのかなって」


『良いに決まってるじゃないですか。こんなに私を必要としてくれる人ってそういないですもん』


「そっか…ありがとね」


『え?何がですか?』


歳が離れてるのに受け入れてくれたこと、俺の不安を吹き飛ばしてくれたこと、彼女は年下なのに俺の全てを受け入れてくれる。


「いや、何でもない」


そう言った俺の顔は穏やかだったに違いない。



「そうだ、今度休みが出来たらドライブにでも行かない?」


『じゃあ私が免許取れたら行きましょう』


「何で?」


『ペーパーにならないように』


「やだよ、教習中の香西さん見てるとめっちゃ不安だもん」


『失礼な!』


受話器の向こうから彼女の笑い声が聞こえる。俺もつられるようにして笑った。



「今度休みが出来たら、ね。免許取れたらまた考えてあげるよ」


『むー…』


いつものように唸っている姿が目に浮かんで、何だか微笑ましい気分になる。


「ちなみにどこに行きたい?」


『フランス』


「行けるわけないじゃん!」


今度は彼女が爆笑している。


『嘘です嘘です。いちご狩りが出来るとこに行きたいな』


「わかった、調べとくよ。

因みに次いつ?」


『明日です』



不意打ちを喰らった気分だ。次で卒業検定に必要な教習は終わる。それが明日なんて…


「聞いてない」


『だって言ってないですもん』


確かにそうだ。だが何か落ち着かなくなって来た。



それを感じ取ったのか、彼女が笑って話し始めた。


『良いじゃないですか、明日終わってもこれからずっと会えるんだし』


彼女の言葉にはっとした。そうだった、俺達付き合ってるんだった。

これからきっと俺は彼女の尻に敷かれっぱなしなんだろう。


「そうだね」


『ね?』



…何だか電話だけじゃ物足りない気分。


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