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「ホラあれ、香西さんの大好きな障害物」
「もー…」
「もーって…」
本日二回目。バスとか駐停車してある車が嫌いみたいだ。
まあ実際毎日車に乗る俺でも気を使う車線変更を素人がするわけだ。嫌いになって当然。
「香西さんてまだ18!?若っ!羨ましいなぁ」
「そう…ですか?でも再来週くらい誕生日ですよ」
「それでもまだ10代だろ!?良いなぁ…」
「今いくつなんですか?」
「もうすぐ30。かつがつ20代って感じ」
へー、と彼女が言った。
俺は今年29で彼女は今年19。ちょうど10歳の差がある。
「大学生が社会的に一番楽な地位だもんな。金ないけど」
「そうですね…
でも私春休みしなきゃいけないことたくさんあるんですよ」
「え、何何?」
「…勉強…」
小さな声で言った。
勤勉だなー、と感心する。
「真面目だなぁ。そんな大学生珍しいんじゃない?」
「いや、したくないんですけど、しないと抜けていくって…」
「それにしても…」
一々説明するのが面倒だったんだろうか、彼女が割って入った。
「私専攻でフランス語やってるんです。だから単語とかちゃんとやってないとフランス語離れするって」
驚きだ。違う世界を見た気分になる。
「え、じゃあさじゃあさ、『私は古野ドライビングスクールで運転免許を取得中です』って言って!」
運転席に沈黙が流れた。
しばらく俺が理解できない音が出て来て、彼女が「えーっと…」と言って考え出した。
「あれ、専攻なんだよね?」
一年生に聞く分には難しいのか?そうだとしてもまだちょっかいを出したくなる。
「じゃあ『私は今運転免許を取得中です』って言って?」
「えっとえっと…免許を持ってます、っていうのは『ジェ ペルミ』って言うんですけど…」
ちんぷんかんぷんだ。何語?あぁ、フランス語喋らせたんだっけ。
「じゃあ『私は今古野に住んでます』は?」
「『ジャビット ア フルノ マントナン』」
「へー…全然違うんだ…ジャビット?」
彼女が説明を足してくれるけど、全くもってわからない。
とりあえず彼女が俺より賢いことだけわかった。