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彼が私を『薫さま』と呼ぶ意図がわからない。何か変に意識してしまって、運転に集中出来ないじゃないか…。


「こき使われてる薫さま」


その言葉には苦笑するしかない。



ただ名前を呼ばれているだけに過ぎない。が、何だかふわふわした気分になって、運転が疎かになりそう…というかなって来ている気がする。今日は横からのハンドル修正がかなり多い。



彼は私の気持ちに全く気付く事なく、笑いながら話し始めた。


「こき使われてんのにさま付けって凄いよね」


「ホントですよ」


何だかため息まで出て来そうだった。


「で、方向オンチの薫さまは道覚えたの?」


軽く笑った。答えなんて聞かなくてもわかるでしょう。

彼は悟ってくれたのか、少し肩を震わせた。


「どうせわかんないんでしょ。香西さんさ、めっちゃ頭良いのにぼけっとしてるよね」


「何を…」


『天然だよね』とかは何か可愛いイメージがあるが…『ぼけっとしてる』はナシだろう、と突っ込みたくなる。


「でも友達にもギャップが凄いねって言われます。『しっかりしてそうなのに天然だよねー』って」


「天然っていうか考えが行動に伴ってないっていうか…実は何も考えてないでしょ?」



つまり今までの発言から、彼は私を天然だとは思っていない。実際彼は以前『香西さんは天然じゃないよ』と言っていた。


「失礼な!」


彼が笑ったあと軽く息をついて話し始めた。


「何か俺、結構香西さんにひどい事言ってるよね」


一応自覚はあるんだ。どうやら彼にはホントにSっ気があるらしい。


「ホントですよ、もー…」


「香西さんいじられキャラでしょ」


「そんな事ないですよ?

友達に『教習所どう?』って聞かれたから『こうだよー』って話したら、『そんなにいじられるなんて珍しいよね』って」


「…あ、俺?」


アンタ以外に誰がいる、と言いたくなったが、そこは我慢しておこう。


「そうですよ」


「俺いじってないし」



嘘だ。『だって香西さんいじりやすいんだもん』ってこの前言ってたじゃないか。


だから二人とも変なノリで会話が進む。


「あ、そうなんですか?じゃあ今までのは気のせい?」


「うん、気のせい気のせい」


「へー、そっかー」


はい、嘘。彼は私をいじってると思ってるし、私は彼からいじられてると思っている。




さっきの会話とは打って変わって終点に着いたらしく、指示が出た。


「はい、じゃあ安全な場所に駐車してください」


ここ終点なんだ、と思いつつ駐車措置をする。


「エンジン切って、車から下りて後ろの人と交代ね」


「はい」


検定の時の指示が出た。目前に卒業検定を控えた今、覚えなきゃいけないことが色々ある。



そんな意気込んでいる私とは裏腹に、彼が笑い出した。


「いや、下りろよ!」


今再現の最中だと気付き、かなり焦った。慌てて下車する。


「あっ、はい!」



ぐるっと車を一周し、助手席を通りすぎようとした時、彼が窓から顔を覗かせた。


「じゃあ運転席に戻って来て」


「はい」



運転席に座って発車措置をする。座席良し、ロック良し、さあシートベルトを着けようとした時に、彼からストップがかかった。


「ちょっと、何か忘れてない?」


周りを見回してみる。危険なものは特にない。キーも刺さってるし…左右もきちんと確認済みだ。


「えーっと…」



彼は笑いながら前を指差した。


「これでしょうが」


「はぁ!」


気付かなかった。いつの間にルームミラーが手をつけられていた。

彼がせかすような口調で喋る。


「ほら、後ろの車が見えるように調整して」


「はい…あ、れ?あれ?」


ルームミラーに手をかけて修正しようとした時、異変に気付いた。後部座席の背もたれしか見えない。


「え?何?」


「いや、あれ?今…あれ?」



確かに左右は動かせるが、さすがに上下には動かせないだろう。いや、動かせるもんなんだろうか。



すると彼が呆れたように手を伸ばし、ルームミラーを右に向けた。


「ホラ。どこで手間取るのさ」


「あ、あぁ…」


なんだ、左右に動かすだけで見える角度が変わって来るんだ…。文系の私の頭にはなかなか入り難い内容だ。


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