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あの後別の指導員と路上運転をしたけど、初めてさっきの指導員が良かったな、と思った。


会話がなくても助手席から私の様子を見て話し掛けてくれるし、何よりも楽しかったから。



あの日から私は彼を指名することにした。

おかしな話…あんなに一段階の時は嫌な指導員だったのに。



印刷された教習カードには『1/9 1時限 内村新一』と書いてある。


何だろう、何か緊張する。




後部座席に荷物を置いて仮免許証を探す。


…ない…。


いや、鞄から抜いてないからあるはず。

焦って鞄の中をあさっていると仮免許証が手帳の間から出て来た。


助かったー、と思ったのもつかの間、屈んでいた体を起こして車外に出ようとすると、後頭部を強打してしまった。


「いったー…」


すると背後から彼の声が聞こえて来た。


「おはようございます。運転席どうぞ」


強打シーンを見られたのだろうか。少し焦る。


「あっ、はい」




彼が先に助手席に座り、スタンバイを始めた。私は頭をさすりながら運転席に座る。


「香西さん元気!?」


何故か朝からテンションが高い。彼、早起きに慣れてそうだしね…。


「え、まぁ」




笑われるだろうか、いや、笑われるに違いない。

でも何故か、彼相手なら構わないと思った。


「さっき、仮免許証忘れたと思って焦っちゃって」


彼はおぉ、と言って笑った。


「あった!と思ったら頭打っちゃって」



彼は私が思ったとおり爆笑した。


「喜びのあまり?」


「いや、普通に…出ようとしたら」




馬鹿な子だ、とか思われるんだろう。自分でもそう思うくらいだし。





路上に出て5分くらい経った時だった。


「香西さん前の時間より上手くなってるね。スピード出てるし」


ちょっと嬉しい。そこは素直に喜んでおこう。



「どこ住んでるんだっけ?」


生徒も多いだろうし、2日前の会話なんて覚えてないんだろうな、と思う。


「下山です」


「ああ、お姉ちゃんと住んでるんだっけ。

自転車で来たの?」



覚えてるんじゃん。自転車ネタはわざとか。


「地下鉄です」


「自転車買った?」


「昨日の今日で準備できる訳無いでしょう!」



また助手席で笑っている。わざとだ。間違いない。




左折指示に従って左折するもハンドルを戻すのに手間取ってしまい、直後にふらついてしまった。


「おおっと!」


彼が横から私の手を握った。


大きくて力強くて、そして温かかった。



「すみません…」


「謝らなくて良いよ、悪いことしたんじゃないし」




ドキドキする。一段階の時は、横からハンドル操作されても手を握られたことはなかった。




少し続いた沈黙を彼が破った。


「それにしてもホントに下山から三國大まで迷う要素ないって」



何で…皆同じ事を言うんだ。自嘲気味に笑うしかない。


「皆おんなじ事言うんですよ。

でもねぇ、そう言われたってわからないものはわからないんです。地元でも迷うのに」



しまった、墓穴を掘った…

彼は横で驚いたと同時に笑った。



「地元で迷うとかどんだけなんだよ!」





私だって何で迷うのか聞きたいくらいなのに。


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