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あの日は本当に夢のような日だった。

食事をして、自宅まで車で送って…



『今日は楽しかったよ。ありがとね』


『いえ、こちらこそ…ありがとうございました』


『とんでもない。

また何かあったら連絡して』


『はい…』



思い返してみても恥ずかしい。

何かあるわけないじゃないか。彼女の事だから、たとえ検定直前なのに経路設計出来ないとしても、俺に頼ったりしないんだろう。


頼もしいような、寂しいような。




デートの数日後、彼女がウチに来ているのを見た。

俺はまたスクールバスの運転手になっていて、定時前に中にいる生徒にバス停を尋ね、運転席に回ろうとしていた時だった。


たとえ目が悪くても、遠く離れていてもわかる、彼女だった。


ショートボブの髪の毛を風になびかせ、すらりとした長身が教習車の運転席のドアに手をかけた。


そうか、今日は高速教習なんだ、と思う。

高速教習もまた指導員が選べない。だから彼女は今、俺の目の前にいるのだろう。



だが何か…後味が悪い。

彼女が担当指導員に見せている笑顔は俺だけのものだと思ってたのに。



話し掛けたい。そばに寄って、軽く頭を撫でて、久しぶりだねから会話を始めて…そんな事は出来るはずがない。


なす術もなくしばらく彼女を凝視していたが、スクールバスの発車時間になったので、慌てて運転席に乗り込む。


乗り込んでも、発車して車が見えなくなるまで彼女を見続けた。





そんな事があったなぁ、とふと思い出す。俺ってこんなに独占欲強かったっけ。


今日の5時から…つまり今から、香西さんの担当に当たる。先日の話や高速の話を中心に話すつもりだが、ボロが出ないようにしなくては…。


早まる気持ちを押さえ、いつも指導員室を出る時間になってからドアノブに手をかけた。




配車のそばに彼女が立っていた。


「こんにちは、運転席どうぞ」


「はい」


彼女は後部座席のドアを閉め、俺に歩み寄って教習原簿と仮免許証を渡した。


長身のうえにかかとが少し高い靴を履いているとはいえ、彼女の頭は俺の目線の高さほどしかない。

小春日和に恵まれた暖かさのせいで脱いだコートから現れたシルエットは、想像以上に華奢な身体だった。



彼女が髪を耳にかけながら笑顔を向けた。


「ね、私が来ても綺麗に晴れるでしょ?」


その姿にただただ見とれるしか出来ない。


「…そうだね」


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