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とりあえず車を検定コースの起点まで走らせた。彼女はまだ仮免中だし、俺の大事な車を運転させる訳にはいかないから、俺が運転するしか手はない。
いつもと条件が違っていて緊張する。何せ『デート』だ。いつ以来だろうかと考える。
「じゃあ今から1コース走るから頑張って覚えてね」
「はい」
返事だけは良い。果たしてきちんと覚えれるのだろうか。
答えは大体見えている。無理だ。
笑いを堪えるのが大変だった。
「あ、そういえばありがとね、チーズケーキ」
彼女の膝に小さな白い箱が乗っている。昼のデザートにするか、3時のおやつにするか、迷い所だ。
すると俺の腕にそっと彼女が触れた。予想外の接触にドキドキする。
「お返し、楽しみにしてます」
なんて心臓に悪い奴なんだ、コイツは…それだけのために腕を掴んだのか。
ドキドキして損した気分だ。
「えぇ?」
「二倍で良いですよ」
「は?」
『二倍で』って…何で二倍返しなんだよ、と心の中でつぶやく。
彼女が笑いながら喋り始めた。
「中には三倍返しを要求する子もいるんですよ?」
なんて恐ろしいんだ…今時の女性はそんなもんなんだろうか。
あれこれ考える俺をよそに彼女が爆笑する。
「嘘ですよ!お返しなんていりません。見返り欲しさに作ったんじゃないんですから」
優しい子だな、と思う。もとは無茶振りだったから結構迷惑を掛けただろう。わざわざ今日のために作り直してくれたんだから…。
「いや、俺からちゃんと何かお返しするよ。何が良い?」
そうですねー、と言って彼女が数秒黙り、そして口を開いた。
「私専用のカーナビになってください」
…え?
いくら運転に慣れているとはいえ、こんな意味深発言をされては運転が疎かになりそうだ。
情けないことに1コースの終点を通過してしまった。




