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やばい。ほとんど寝てない。
小学生の時からそうで、イベント事の前日はまともに眠れない。
おかげさまで今猛烈な睡魔に襲われて、布団から抜け出せない状況だ。
いや、こんなんじゃダメだ。折角彼がドライブに連れて行ってくれるんだから。そう自分に言い聞かせて起きる。
それからの作業はあっという間だった。
朝食をとり、歯を磨いて、着替えて、髪をといて、時計やネックレスをつけて。
もう終わり。どうしろと言うのか。
『明日は下山駅前に9時集合だよ。覚えてる?』
『私そこまで馬鹿じゃないですよ…』
『持って来るものはチーズケーキね』
『…はい』
あ、チーズケーキ。慌てて冷蔵庫から取り出した。小さな箱ではあったが、一切れじゃ何だか寂しかったので二切れ入れた。
早速することがなくなる。今腕時計は8時半を指していた。家から駅までは徒歩10分。ダラダラ歩けば良い時間になるだろうか…。
が、私の予想に反してジャスト10分で着いてしまった。
どうしようか、もう着いちゃいましたと電話しようか。いや、運転中かもしれない。携帯を開いてあれこれ考える。
するとマナーモードに設定していた携帯が震え出した。画面に表示されていたのは『内村新一』という名前だった。
何故だか頬が緩んでしまう。
「もしもし?」
『おはようごさいます』
「あっ、おはようごさいます。
丁度良いタイミングですね!今駅前に着いたんですよ」
運転中でも電話が出来る装置を付けてるんだろうか、とかあれこれ考える。
『で、チーズケーキは?』
「またそれですか…ちゃんと持ってます」
手に持っていた箱を目線の高さまで持ち上げた。喜んでくれるだろうかと不安ではあったが、味見の段階ではバッチリだ。
『合格。じゃあ車に乗って良いよ』
「…え?」
もう来ているのだろうか。辺りを見渡してみるけど、彼の姿は見当たらない。
受話器の向こうから笑い声が聞こえた。
『目の前の車の助手席ね』
はっとする。そうだ、ドライブだから車で来てたんだ。それからあのちょっと乙女チックな一部始終を見られていたみたいだ。
助手席のドアを開けて恐る恐る尋ねた。
「ず、ずっといたんですか?」
「うん。いつ気付くかなー、ってずっと見てた」
「…目の前にいたなんて…」
恥ずかしいなぁ、もう。目の前で見てたなんて反則だ。