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俺は子供か。
あくびをしながら下山駅前まで車を走らせる。恥ずかしい話、まともに寝ることなんて出来なかった。
しかも当日に睡魔が襲ってくるという最悪のパターン。遠足を楽しみにしていたあまり寝不足になって、当日体調を崩して結局あまり楽しめなかった小学生と同じ。
目もかなり早く覚めてしまったし、することもないので家を出て来た。時計はまだ8時半を指していた。
30分も早く来てどうするんだと自分に言い聞かせる。すでに下山駅に到着した車を止め、何をしようかあれこれ考えた。が、することも見つからず、とりあえず携帯を手に取るしかなかった。
『明日は下山駅前に9時集合だよ。覚えてる?』
『私そこまで馬鹿じゃないですよ…』
『持って来るものはチーズケーキね』
『…はい』
昨日のやり取りを思い出す。彼女の微笑みが頭から離れなくなって来ている。
俺もまだ若いな、なんて思いながらふと助手席の方に目をやると、もう着いてしまったらしい彼女がきょろきょろと周りを見渡していた。
おいおい、まだ20分前だぞ、と言いたくなるが、人の事を言えるはずもない。
ふっと笑ってから、手にしていた携帯から電話をかける。彼女はどんな素振りを見せてくれるだろうか。
彼女の携帯に今着信があったのだろうか、ぴくんっと動いた。もう小動物としか言いようがない。
俺がじーっと見ているのに、それに気付く事なく笑みを浮かべて携帯を耳にあてた。
頬が熱くなるのがわかる。
『もしもし?』
「おはようごさいます」
『あっ、おはようごさいます。
丁度良いタイミングですね!今駅前に着いたんですよ』
彼女は目の前に止まっている車が俺のだとは思ってないようだ。
「で、チーズケーキは?」
受話器の向こうで笑っている。
『またそれですか…ちゃんと持ってます』
彼女の手元を見ると、小さな白い箱があった。あの中に彼女お手製のケーキが入っているのだろう。
「合格。じゃあ車に乗って良いよ」
え?と言って彼女がきょろきょろし始めた。あまりの面白さに笑ってしまう。
「目の前の車の助手席ね」
彼女が気付き、右手で口を塞いで顔を赤くしている。
助手席のドアを開けて彼女が尋ねて来た。
「ず、ずっといたんですか?」
「うん。いつ気付くかなー、ってずっと見てた」
「…目の前にいたなんて…」
彼女が呟きながら席についた。
そんなに恥ずかしかったんだろうか…いじらずにはいられない俺はSなのかもしれない。