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教習カードとにらめっこを続けていた。
何故私は今日予約を入れたのだろう…ドライブは明日なのに。
「お疲れさまです、香西薫です」とだけ書かれたメールを削除して、いつもはコートのポケットに入れている携帯を鞄の中にしまった。
後部座席に荷物を置いて一息着く。今日どんな顔をして会えば良いのだろう。
すると彼の声が背後から聞こえて来た。
「おはようございます、運転席どうぞ」
「あ、はい」
慌てて車に乗った。
微妙な空気が流れているのが手に取るようにわかる。彼の顔を見ることなんて出来なかった。
「…仮免の表示板前と後ろにつけた?」
「あ、今つけました」
それだけ。ただそれだけ。どうしたら良いのか全くわからなかった。
「メールは?」
諦めてシートベルトを着けようとする私に、思いもしなかった質問が投げ付けられる。
送ろうとはしました。送信寸前までは作業したんです。何と答えたら良いのか…頭がぐるぐるする。
「メールしてって言ったじゃん」
彼が苦笑しながら言った。
「本文は作ったんです。送信してないだけで」
「しろよ!」
いつものように笑っている。
彼は間違いなく私がどれだけ携帯と格闘したか知らない。
「むぅ…だって今更送る内容なんてないじゃないですか。集合時間も場所も決まってるのに…」
「行き先決まってないじゃん」
「え、検定コースと家から大学と教習所までの道でしたよね?」
それ以外の行き先なんて厚かましくて言えない。好意を寄せているのがバレて引かれようもんなら、実用コースを選ぶのが無難だ。
「OK、OK。じゃあその他は俺にお任せって事で」
その他?ってどういうこと?
わけがわからなくなる。
これ以上考えても頭が痛くなるだけだ、と諦めて発車した。
他の人もこんな状態だったんだろうか。路上で駐車すれば苦情が出そうな感じでとりあえず駐車した。
「ホラ、もっと綺麗に駐車してよ」
「むー…」
再び車を動かして何とか綺麗に駐車しようとする。やっぱり他の生徒さんはこんなに下手ではないんだろう。
いつもより集中できない理由なんて決まってるじゃないか。彼の視線が気になるからだ。
「…そういやチーズケーキは?」
思い出した。今日持って来る約束だった。
「…忘れた」
「はぁ!?次の時間にくれるんじゃなかった?」
適当な事を言ってごまかす。
「でも今持って帰っても邪魔になりません?
どうせ明日会えるんだし、その時にでも渡そうかなって思ってたんですけど…嫌でした?」
なるほどー、と彼が納得してくれた。明日こそは忘れないように持って来なきゃ。