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お風呂から上がったとき、オルゴールの着メロが聞こえた。
「ずっと携帯鳴ってたよー」
お姉ちゃんがテレビを見ながら言った。慌てて着替えて携帯を手に取る。
080から始まる番号から3回ほど着信があった。
もともと電話はほとんど使ってないから、この番号の主は彼だと確信した。
発信ボタンと数秒格闘した後電話をかけた。彼がどのタイミングで取るのか緊張する。
『もしもし』
彼だ。いつもとなんか違う風に聞こえる声にドキドキする。
「あの、さっき何度かお電話頂いてたんですが…」
数秒沈黙が流れた。間違い電話だったのかと不安が募る。
すると携帯の向こうから軽い笑い声が聞こえて来た。
『古野ドライビングの内村です』
「あ、やっぱり?」
脱力した。もし違っていたらひどく後悔していただろう。
「すみません、お風呂に入ってて…」
『かけ直すなんて不用心だなぁ』
向こう側で彼が笑いながら言った。一応心配してくれているのだろう。
「すみません…でも根拠はないけどそうだって思ったんです」
『次からは知らない番号からかかって来てもかけ直すなよ?
あ、でさ、休みなんだけど…一番近い休みが今度の火曜なんだよね。どう?』
スケジュール帳をぱらぱらめくりながら答える。
「あー…火曜はバイトが…」
『何だとー!?』
わざとらしく彼が大きな声を出した。笑うことしか出来ない。
「すっ、すみません!」
彼もまた笑っていた。
『いいよいいよ。じゃあ木曜は?』
「あ、その日なら大丈夫です」
『よし、決まり。
じゃあ朝から空けとけよ。9時に下山駅前ね』
「はい」
…ん?朝から?
朝からって…昼でお開き?
それとも何往復もするつもりなんだろうか、検定コースを。
あれこれ考えていたが、彼の声にはっとする。
『とりあえずさ、アドレス教えとくから連絡して?
メールだったら教習の合間でも出来るし』
「わかりました」
『じゃあ今日はこの辺でね。おやすみ。バイト頑張れよ』
「はい。おやすみなさい」
短い電話が終了した。用件だけではあったけどお互い次の日に仕事があるし、短いとはいえ楽しかった。
それはさておき、何とメールをしろというのか。
集合時間も場所ももうとっくに指定されている。
「むぅ…」
何度もメールを打っては消去した。