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何回やってもまともに駐車できなかった。
また下手な姿をさらしてしまって恥ずかしい思いをしたもんだ。
彼が今日も横からハンドル操作をして駐車している。何かすごく…すごくこう、じーっと見てしまう。
「じゃあコレ復習で」
当たり前じゃないか。こんなので合格だったら教習所のシステムを疑う。
彼がいつものように印鑑を押しながら話しかけて来た。
「復習になると落ち込む香西さん」
「そこまで落ち込んでないじゃないですか」
「でもこの辺へこんだんだよね」
「う…」
私は色んな意味で彼に弱いのだ。
彼が笑いながら話し始めた。
「ドライブの事なんだけど…」
びっくりする。ホントに連れて行ってくれるんだろうか。
ドキドキしてきた。
「…ホントに行くんですか?」
彼は少しだけこっちを向いた。
「折角だし行かない?何回も通ったら道覚えるだろうし。
…嫌なら良いけどさ」
ホントに連れて行ってくれるなら、それはそれは嬉しいことだ。
慌てて前言を撤回する。
「とんでもないです!私で良いなら喜んで」
よし、と言って彼は自分のバインダーからプリントを取り出し、裏紙を使って何かを書き始めた。
「番号教えてもらって良い?休み確認して連絡するから。
香西さんも休み確認しといて」
「わかりました。
番号は090…」
内心心臓が止まるかと思った。これは現実の世界の話?
教習が終わって、しばらくの間携帯とにらめっこを続けた。