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昨日の夜にバレンタイン用のチーズケーキを焼いた。炊飯器で簡単、と油断して作業をしていて、見事に釜で火傷してしまった。
水ぶくれのカバーのために絆創膏をしていたけど、複数枚貼ってて剥がれそうだったので、上から包帯を巻いている。
大袈裟だっただろうか、彼が心配そうに尋ねて来た。
「…その手どうしたの?」
「あぁ、火傷したんです。絆創膏が剥がれそうだったから念のために包帯巻いただけなんで、大した事ないですよ」
「料理してたの?」
「はい。お菓子作ってて…」
「へえ、何くれるの?」
…え?
パニック状態の脳がパンクしそうになる。
「いやいや、いつも丁寧に指導してる俺に何くれるの?」
「作ったのはチーズケーキなんですけど…食べれますか?」
「マジで!くれるの?」
「え?あげるなんて一言も…」
確かに彼に渡せたらな、と思いながら作りはした。でも明日はバイトだし、次に彼に会えるのはあと5日後だ。渡せるはずもない。
彼が私と一緒に後方を確認しながら話しかけて来た。
「何、あげる相手でもいるの?」
『内村さんです』
そう言えたらどれだけ楽だろう。
「いる訳ないじゃないですか。お姉ちゃんと二人で食べるんです」
「じゃあ何でくれないのさ」
彼が拗ねた子供のように言う。本気で言ってるの?それ…。
訳がわからなくなりそうだから、高校の先生達のノリと一緒か、と受け流すことにした。
「だって明日来ないですもん。次もしばらく後だし」
「それだったら次来る時持って来てよ」
わからない、彼が何を意図しているのか。
私には駆け引きなんて向いてないのに。