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約20日ぶりだ。よく数えてたなと思う。
今日から駐車措置の指導だから、しばらく所内での指導になる。
久しぶりに彼女に会えると胸を踊らせながら配車へ向かった。
…彼女がいない。
配車を間違えたか?キャンセルされたか?
あれこれ考えていると背後から慌ただしい足音が聞こえて来た。
振り返らずともわかる、彼女だ。
彼女に笑顔を向ける。
「おー、来たね!運転席どうぞ」
息を切らしながら笑顔で答えてくれた。
「はい!」
前の教習からも一週間くらい経っているらしく、立ち上がりが悪い。
こんなので大丈夫か?と思いつつ指示を出す。
「今日は駐車措置の練習ね」
「…はい」
おや?
「元気ないね?」
彼女が小さくむぅ、と言った。
「まともなバックした事ないから自信ないんです」
「復習項目にしようか」
俺の言葉に開き直ったかのように笑った。
「お願いします」
所内での指導とはいえ、話したくなるのはやっぱり『方向オンチ』だ。
話の軸がほぼそれだと言っても過言ではない。
「方向オンチの香西さん」
彼女がまたか、という顔をした。
「もうウチまでの道覚えた?」
「…まだです」
「三國大までは?」
返事がない。思わず笑ってしまった。
「マジどんだけなんだよ…簡単だってば」
彼女が再びむぅ、といった後口を開けた。
「そんなに言うなら今度ドライブに連れて行ってくださいよ」
…え?
これは願ってもないチャンスだ。
この言葉は他の誰でもなく、俺に向けられたものだ。
答えなんて決まってるじゃないか。
「良いよ。どこに行きたい?」
彼女は少しびっくりした後、あたかも当然のように答えた。
「検定コースと、家から教習所までと、家から三國大…」
何と実用的なコースなんだ。ムードのかけらもない。
最初だし良いか、と軽くため息をついて笑った。
「了解」




