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今日の担当は女の人だ。
応急救護で当たったことがあるから知ってるけど、美人で明るい若い人。教員ナンバー順から推測すると、多分彼より年下だろう。
いつもと違う車でハンドル操作に手間取ってしまう…重い。
「重いでしょう?この車男性には力があるって人気なんですけど、女性にはハンドルが重くてきついんですよ」
「そうですねー…」
高級車には絶対に乗らない。決めた。
彼とは違い、指導内容からほんの少しだけ派生した話しかしない。だから指示以外は会話なんて存在しなかったと言っても過言じゃなかった。
「この道覚えてます?検定コース2なんですけど」
ぶっちゃけてみると、覚えてない。でもここでそんな事言うと彼の先輩としてのメンツが丸潰れだろうか。
余計な事を考えて嘘八百を言う。
「はい」
このやりとりがその後何度続いた事か…この嘘がバレないかびくびくしたもんだ。
そしてふと考えた。彼女は彼とどんな会話をしてるんだろう。
嫉妬か?バカバカしい。彼の恋人でもないのに…。
教習を終わらせた後、ふと配車待ちのベンチの方へ目をやった。そこにあるのは、たばこを吸っている彼らしき後ろ姿。
息が詰まりそうだった。
話し掛けたい。そばに行って、袖を引っ張って、軽く挨拶もして、そして話をしたい。
でも勇気が出なくて、ただただ彼の後ろ姿を眺めた。
近くて遠くにいる彼。手をのばしても届かないかもしれない…。
私の次の技能予約は、あと8日後。