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また一週間以上会えていない。
普通の学校と違って良いのは先生と生徒の恋愛がご法度ではないところ(中には推奨している教習所もあるらしい)。
逆に悪いところは生徒が来る日がまちまちというところ。
だから二日連続で会える日もあれば、こうやってかなり日が開くことがある。
今頃彼女は何をしてるんだろう。そんな事を考えながらタバコをふかす。
すると教習を終わらせて帰って来た池田ちゃんがおもむろに俺の隣に座った。
「さっきの時間は休憩だったんですか?」
「うん、まあね。車乗りたかったけどさ」
そうですか、と言って彼女が笑い、ちょっと間を置いたあと口を開いた。
「…内村さん、香西薫って知ってますよね?」
ドキッとした。何で彼女の名前を知ってるんだろうか。
変な噂が流れてるのか?香西さんが俺から離れてしまうのか?
ぐるぐるする。
「お…おぉ、知ってるよ。俺を指名してくれてる子」
開き直った感がある。どうにでもなれ。
ただ言えることは一つ、俺達はデキてない。
俺の脳内とは逆に、彼女が楽しそうに話を始めた。
「今日その子の担当だったんですよ。原簿見たら印鑑が半分以上内村さんだったから」
何だ、そういうことか。安堵する。
「秘蔵っ子なの。面白い子だったでしょ」
彼女が目を丸くした。
「え?そんなことなかったですよ?
大人しくて落ち着いてて冴えてて」
「そうだね…でもそれは真の姿じゃないんだよ。
彼女面白い上に超方向オンチでさ」
池田ちゃんの眉間に少しシワが寄った。
「…え?香西さんの話ですよね?
あの子難無く道進むし、検定コースもバッチリで、内村さん指名の生徒にしては上手いなぁ、って思ったんですよ」
「おい、どういう事だよ!」
とりあえずツッコミを入れてはみたが…どういう事だ?
本当に彼女の話だろうか。
そっか、池田ちゃんの上手いレベルはかなり低いんだ。
そう自己完結してみた。
彼女の運転が上手くなるのは実に嬉しいことだが、俺の頭の中では「彼女が上手くなる=俺から離れていく」。まだまだ技能レベルが低いと思いたい。
次にあの子に会えるのはいつだろう…。
いつも身につけている白いロングマフラーを思い浮かべながらそんな事を考えた。




