-33-
徐々に教習所が見えて来た。つまり今日の教習も終わりに差し掛かって来た。
「香西さんの地元に国立大あったよね?」
話題は彼女が国公立大学受験者だったというところから来た。もっとも軸は『地元国公立大学』ではなく、『地元の国公立大学がどこにあるか知っているか』だったが。
「確か…隣の区でした…多分」
絶対知らないな、コイツ。
我慢していたがついつい笑ってしまう。
「…香西さんの言葉信用ならないね」
「むぅ…」
「確か日産の工場とかあったよね…小学生の時工場見学とかしたもん」
へー、そうなんですかー、と彼女が言う。演技か?と聞きたくなるくらい地理に疎い。
「あれは感動したよ。あの部品がここで作られてるのか!とか」
「ほー…」
「ほー…って興味ないだろ!」
笑いながらの主張に首をぶんぶんと横に振る。
「そ、そんな事ないですよ!」
「女の子っていっつもそう!車とか乗れれば良いって感じよね」
車に求めるのは可愛さと乗りやすさ。早さとか性能なんてどうでも良いとか言う人もいる。
それが理解できない。
「車とかピンク色の買うとかね」
すると間髪入れずに彼女が答えた。
「や、私ピンク無理です」
「あ、そうなの?」
何か…意外だ。フェミニンな感じがするのに。
「何て言うかこう…」
「女の子女の子したのが無理なんだ」
彼女が静かに頷く。
「俺の知り合いにも男っぽい奴いるけどさ、でもそういう女の子の方が好かれるんだよね」
例えば池田ちゃんとか、と思うが変なイメージを与えてはいけないのでそれは言わない。
「へー…でも私色々あって携帯ピンクなんですけど、あと一ヶ月我慢すればやっと開放されるんですよ」
その笑い声で謎が解けた。何故俺が彼女に惹かれているのか。
「…あのさ、いっつも思ってたんだけど、香西さんって俺の高校の時の副担任に似てるんだよね。顔とか声とかイントネーションとか」
若くてさばさばして、でも可愛らしさがある先生だった。生徒からは人気で、俺の憧れの先生でもあった。
彼女がびっくりしている。
「あ、そうなんですか?」
「何でだろ、同じ系統の顔だからか全部同じに見えるんだよね」
「同じ系統って…」
「いやいやホントに
音楽の先生だったけどすごい似てる」
「…そんなに?」
そう。
別に彼女と先生を重ねてる訳じゃないが、何だろう、あの時の気持ちを思い出す。