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探せ、探すんだ話題を。
頑張っても老朽化しつつある脳はありきたりな話題しか思い付かない。
「バイトって何してるんだっけ」
彼女がんー…と言って数秒沈黙が流れた後、ためらいがちに答えた。
「まぁ…色々と」
「そんなにやってんの?何に使うのさ?」
「そりゃ留学費ですよ」
「あ、フランスの?」
そういえば来年の三月に行くって言ってたな、と思い出す。
「全額なんて出してもらえないし、かと言って全額準備するのは無理だから…自分で稼げるだけ稼いで、足りない分を出してもらいます。
でも出来るだけ親に出してもらう額はゼロに近いようにしたいです」
なんて偉い子なんだ。こんなに親思いで健気な子は見たことがない。
「でもさ、俺の娘がそんな感じだったら絶対出してあげる…全額は無理だけど。
努力もしないで金だけ要求されたらそりゃ絶対出さないけどね」
きっと彼女の両親もそう思っているんだろう。頑張っている姿を見ているからこそ、全額は無理でも出してあげたいと思っているに違いない。
感心する内容から一転、鈍行車で検定コースを走る彼女をいじらずにはいられなくなって来た。
「香西さんさ、注意するとこはちゃんと注意して、きちんと目配りして安全確認できてるけど、香西さんの運転を一言で表すと…『遅い』!
何でそんなに幹線車道遅いんだよ!?出せよ!」
笑っている俺とは対称的に、彼女が縮こまっていく。
決定、彼女は小動物。
賢くて凛としてて、でも道がわからない面白くて…可愛い奴。
「そう、ずっと聞きたかったんだけどさ」
遂に話題を核心に持って来た。告白をする時みたいに心拍数が上がる。
「香西さんって俺指名してるよね?」
「はい」
「すごい嬉しいんだけどさ、指名してもらえるっていうのは」
言葉が濁ってくる。自分を奮い立たせるかのように真っすぐと前を見つめた。
「でもさ、そもそも何で俺なの?」
正直返事が怖かったが、彼女は少し顔を右に傾けて答えた。
「何で…んー、何て言うか今までで一番合ってたんですよね」
「へぇ」
「今まで当たったことのある指導員の中で一番やりやすかったっていうか」
「初回あれだけぼろくそ言ったのに?『遅い!』とか」
「ん、でもやっぱり一番やりやすかったです」
告白の返事がOKな時みたいに嬉しかった。
もっとも『指導員として』ではなく『一人の男として』合ってるのであればこの上ない幸せだが。