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「へー、香西さんって三國大の一年なんだ」



彼女は前を向いたままはい、と答えた。


少し慣れて来てはいるが、まだふらついてて何より遅い。



「ほらほら、もっとアクセル踏んで」


彼女はふるふると首を横に振って慌てた。


「無理です無理です!」






大人しい子だと思っていた。


「いた」って言うくらいだからどんな子か想像がつくだろう。

天然なんだろうか、反応が面白い。



左折後にアクセルを踏んだらそれが急発進みたいな形になり、思わず「おぉ!」とびっくりする。


今みたいに「アクセル踏んで」と言うと半泣きに近い状態になる。


バスや駐車してある車など障害物があると教えれば「もーっ」と言って脱力する。



なかなかこんな生徒いない。

教習が次第に楽しくなって来た。




「香西さんはどっちから来てるの?正門?通用門?」


「あー…地下鉄なので正門です。」



おや?と思う。


三國大の周辺に住んでないのだろうか。



「ちょっと待って。どこ住んでんの?」


再び見向きもしないで答えた。


「下山です」





「は?」



一秒間があいての俺の返事はこれだった。


確かに下山は直線的に言えば遠くはない。

しかし地下鉄経由なら時間の無駄にも程があるくらい遠回りになる。



彼女は言われ慣れてるのだろうか、苦笑してもう一度言った。


「だから、下山です」



俺は思わず笑った。


「自転車で来いよ」

「自転車持ってないです」




この子はどれだけ笑わせたら気が済むのか。

「買えよ!」


彼女はうー…、と唸り、初めて自分から話し始めた。


「買ったところで無理ですよ、私方向オンチですもん」




おいおい。

さらに追い撃ちをかけるような返事。どう考えたって下山から三國大まで迷う要素は一つもない。


何とか笑いを堪えて話しかけた。



「あのさ、下山から三國大までは直進、左折、直進なんだから迷わないって」


彼女は少し口を尖らせている。

「みんなそう言うんですよ。どうやったら迷うんだよ!みたいな…

自分でもわかんないんですよ、何で迷うか。でも迷うんです。」




知り合いに方向オンチがいるが、まさか方向オンチの子に教えるなんて思ってもみなかった。

しかも反応が面白いっていう。


やばい、面白過ぎる…


「経路設計どうすんの?」



赤信号で少しだけ余裕があったのか、ちらっとこちらを見てまた唸った。


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