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「それでさ、内村さんがね、」
「…内村さんて誰?」
一つ上のお姉ちゃんに言われた。
「あ…れ、話した事なかったっけ?
教習所の指導員のさ」
「あー、はいはい!あんたが指名してる人ね」
「そうそう。それでさ…」
どんな事があったのか、何を言われたのかとかとにかく色々話していた。
「薫さぁ、その人いくつ?」
晩ご飯に準備していたポタージュをすすりながら答える。
「んー…この前『かつがつ20代』って言ってたから30近いんじゃない?」
「ふーん…で、あんたはその10くらい上の人にホレたんだ」
ポタージュを吐き出しそうになる。我慢したせいで気管支に入ってしまった。
「…っ!何でそうなるの!」
お姉ちゃんはパソコン作業を続けたままだ。
「だって最近話題が自動車学校…ていうかその『内村さん』?だもん。
薫ってわかりやすいよね…まあ人の事言えないんだろうけど」
まだ好きだって認めた訳じゃ…!
げほげほとむせているので反論は出来ない。
自分では無自覚だ…そんなに彼の事話してたっけ。
スクールバスに揺られながらぼんやりと考える。
今日の担当も彼だから、お姉ちゃんにまたついつい話してしまうんだろうか。
「今日も『方向オンチの香西さん』とか言われてさー」とか言ってしまうのかな…。
ダメだ、変に考えてしまう。意識したらまともに運転できないじゃんか!
運転席に座って頭を冷やそうとしても無理だ。
初めてと言って良いほど助手席を直視した。
今日も彼がここに座るんだ…地図を見るときなんか結構な至近距離なる。
助手席のドアが開いてはっとする。私ってば何を考えているんだろう。
「おはようございます、よろしくお願いします」
彼が笑顔で挨拶をして来た。ほんのりタバコのニオイがする。
ヤバイ、直視できない…。
「よろしくお願いします」