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ここは客間。畳の匂いが目の前に広がっている。



そこで正座をする俺。俺を見ながらお茶をすするお義父さん。彼女とお義母さんの姿はそこにない。



「で、」


お義父さんが湯呑みを置いて俺を真っすぐ見た。変な汗をかいてきてるのがわかる。


「はい」


「薫の…どこが気に入ったんだ?」


「え?それは…」



なんて答えれば良いんだ?親の前でぼけっとしてるとかバカとかは言えないし、全部って言いまとめるのもどうかと思う。


あれこれ悩んでる俺を見て、お義父さんが豪快に笑った。


「いや、この世には物好きがいるもんだと思いまして。彼氏の話なんてしたことないから結婚出来るか心配してましてね」


ふふ、ともう一度笑ってお義父さんはお茶を飲んだ。見た目の割りにはお茶目な人だ。


「内村くんはいくつだったっけ?」


「あ、先日35になりました」


「薫の10コ上か」


ふむ、とお義父さんが腕を組んだ。また壁が立ちはだかるかと思ったら、事は思わぬ方向に進んでいった。


「俺が今年52だから…俺とは17違いか。母さんとは13違いだな」


「はぁ」


「何か義理の息子っていうよりは年の離れた弟みたいですな」


「…そうですか…?」


「うん、なんかね、昭和の匂いがする」



老けて見えるってことか。思わず心の中で突っ込んでしまう。




だが会話の流れ的にお義父さんは結婚を認めてくれているよう。普通嫁のところがハードル高いのに、何故か俺の家のほうがてこずった…簡単に許してもらえた方だとは思うが。



「ところで内村くん」


「はい?」


「子どもは…どうなんだね?」


「もちろん考えてます。3人くらい…欲しいかなぁって」


「そーかそーか」


もう一度お義父さんがふふ、と笑った。


「光がね、この前初孫を産んで…可愛くて可愛くて仕方なくてですな。もうすぐ薫も、と思って」



光とは彼女の一つ上のお姉さんだ…教習生時代の彼女をこき使っていたと噂の。一応光さんも学生時代ウチに来ていて、しかも俺がスクールバスで送ったこともあるらしい。まったく身に覚えはないが…。


「籍を入れたら子作りを考えてます」


「そうか…その辺の若者と違って良識があっていいな」



その言葉に思いっきり作り笑いをしてしまった…出来ちゃった未遂があったからだ。まあ結局食当たりだったとか、生理不順だったとかでぶっちゃけ全く関係なかったが。


あの時はかなり焦ったが、今となっちゃあの無駄な慌てようは滑稽で仕方ない。



「僕も歳が歳ですので…出来れば早めに籍を入れて子供が欲しいなぁと」


「なるほどな」


お義父さんが再び腕を組んだ。ちょっと首を傾げたあと、ちらりと俺の方を見る。


「じゃあいつ頃に結婚したいんですか?」


「えっと…」



ぶっちゃけ、全然考えてなかった。早くにとはホントに思っていたが、いつ頃と聞かれると言葉に詰まる。


若干目が泳ぎだした俺を見て、お義父さんが机に肘をついて身を乗り出すようにして話し掛けてきた。


「何なら今日籍を入れてもいいんですぞ」


「…え?」



これ以外になんてリアクションをしたら良いのか、知ってる人がいたら教えてもらいたい。どっからこの『早く籍を=今日籍を』という発想が出てくるのかわからない。


確実にぐるぐるという音が聞こえてきそうな脳みそと必死に戦っていると、お義父さんが声を上げて笑った。


「冗談ですよ。困りなさんな」


お義父さんは腕を組んでふふ、と笑う。




…このオヤジ…。発想がどことなく彼女に似ている。

そりゃそうだよな、親子だもん。



あれこれ考えながら苦笑した。


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