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「はー…緊張したぁ」
彼女が助手席に座るやいなや、安堵のため息を吐いてこう言った。
あのあと結局彼女とおふくろで昼飯を作って、みんなで一緒に食べた。親父もおふくろも『薫さんは料理上手だねぇ』と感心しきりだった。
…なんか反応的に、昔彼女を家に連れて来てれば意外とOK貰えてたんじゃないか…?
二度手間だなぁ、と思わず苦笑してしまう。
すると彼女が勘違いしたんだろう、むぅ、と言って軽く俺の腕を殴った。
「バカにしてるでしょ」
「してないよ」
「うそくさい…」
「ホントだって!」
彼女の言葉に思わず笑ってしまう。
「そうじゃなくて、昔こうやって話だけじゃなくて家に連れて行ってれば、もっと早くに結婚出来てたのかなって」
彼女がもう一度むぅ、と唸った。
「過去を掘り起こすのはやめましょう。何言っても変わらないし」
「まあね」
「それにね、」
俺が車のエンジンをかけたその時、不意に柔らかいものが俺の左頬に触れた。ちょっとびっくりして横に振り向くと、彼女がやわらかい笑みを浮かべていた。
「今すごく幸せだから…時間なんて関係ないよ」
えへへ、と彼女が笑ってみせた。あまりの可愛さにそのまま彼女に口付けをする。
唇を離して彼女の頭をそっと撫でた。
「ありがと…おまえの実家でも頑張るよ」
「私も」
彼女がもう一度えへへ、と笑った。俺は笑みを浮かべたまま車を発車させた。
「まあ何が残念かって家にいないことだよね」
「何で?」
ハンドルを握ったままちらっと彼女を見た。彼女は首を傾げてこちらを向いていた。
「何ででしょ」
彼女は何も言わずに反対側へ首を傾げた。手を顎にあててる辺りガチで考えてるっぽい。
「うー…ん…あ、北海道物産展で買ったカレーパンを昼ご飯に食べたかったから?」
バカだコイツ。今本気で思った。
確かに昨日彼女が北海道物産展に行って『明日の昼ご飯に』とカレーパンを買ってはいたが、今このくだりでカレーパンには、どう考えても結び付かない。
思わずハンドルを叩いて笑った。
「それ…本気で言ってんの?」
「だって他に思いつかないから!」
「違います。はい、やり直し」
「むー…」
二人ともに言えることだが、この歳でこのリアクションとこの関係。昔のまだ若かった頃と何ら変わりない。
そこにあるのは愛しさと心地よさ。ただそれだけ。
ふっと笑って彼女の右腕を軽く叩いた。
「じゃあ家でじっくり教えてあげる」
「はぁ…」
相変わらずわかってなさそうな彼女につい苦笑してしまう。
もうすぐ、最終関門に到着予定。