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時間が経つのは早いもので、もうすぐ付き合い始めて半年になろうとしている。やっと彼女の敬語ぐせが直ったが、俺としては嬉しいような面白くないような…微妙な心境だ。
そろそろ同棲を始めたいのもあって、2人で都合を合わせて双方の実家に挨拶に行くことになった。
ついに来てしまったか、というような心境で車を走らせる。結婚するなら避けて通れない道。頑張らなければ、と思う。
「緊張してる?」
彼女が覗き込むようにして俺の方を見た。ちらっと彼女の方を向く。
「いや、んー…少し」
「どっちよ」
彼女が前を向いて笑った。彼女につられて俺も笑う。
「お前どうなの?」
「私?そりゃあ緊張してるよ」
「へぇ」
「だって…すごく反対されてたんでしょ?昔…」
少し前に、昔彼女との結婚を親に話して猛反対されたことを彼女にぼやいた。が、当初彼女が反応したのは、あの当時俺が結婚を考えていたことの方で、思わず『そっちかよ』と突っ込んでしまったのは言うまでもない。
「まあでも昔と今じゃ反応違う可能性高いし」
「そうなの?」
「だって俺もう年じゃん?」
「そんな…」
彼女が少し悲しそうな顔をしてこちらを向いた。
いつも彼女はこの話をすると悲しそうな顔をして黙ってしまう。いつも気にしすぎだろ、と思うとちょっと笑いが出てしまう。
「気にすんなって」
彼女の髪をくしゃっと撫でた。
「だって…」
「俺別にそんな気にしてないし」
「ホント?」
そしてもう一度、彼女の髪をそっと撫でた。
「お前こんなんじゃ先が思いやられるぞ?」
俺の言葉に彼女はむぅ、と言ってうつむいた。
「大丈夫、親父とおふくろは俺がどうにかするから」
彼女が小さい声で頷いた。
俺の実家は俺の家から近いといえば近いし、遠いといえば遠い。とにかく昼の10時過ぎにはもう到着した。彼女の家にも行かなきゃいけないから、それを考えるとちょうどいいのかもしれない。
「ただいま」
「おじゃまします」
俺の後に続いて彼女が挨拶をしたが、もう家にあがる俺とは対照的にずっと玄関に立ったままだ。
「あがれよ」
「え?でもご両親が…」
「いーよいーよ、行こ」
ためらう彼女の手を引いて居間へと向かった。
「あら新一、おかえりなさい。待ってたのよ」
居間のドアを開けると、おふくろが温かいお茶を入れていた。親父は新聞を広げたままだ。
「この前話した彼女。紹介するよ」
「あ、香西薫と申します」
彼女が丁寧に頭を下げた。親父はようやく新聞を折り畳み、おふくろと一緒にまじまじと彼女を見ていた。
「まー、新一にはもったいないくらいの可愛い方ね」
「どういう意味だよ」
おふくろの言葉に苦笑してしまった。親父も娘を見るような目で彼女を眺めている。
「いい嫁さんになりそうな人じゃないか」
「そんな…恐縮です」
彼女がはにかみながら答えた。なかなかの好感触に、このままOKをもらえると信じ切っていた俺に試練の時がやって来た。
「失礼ですが…香西さんはおいくつですか?」
「先日25歳になりました」
そして、沈黙が流れる。おふくろはびっくりしてこっちを向いた。
「結婚を考えてる女性って…香西さん?」
「そうだよ。5年くらい前に同じ話したの覚えてる?」
親父もおふくろもためらいがちに頷いた。彼女を庇うように一歩進み出て彼女の前に立つ。
「昔一回別れちゃったんだけど、結構前にたまたま会って、やっぱり俺はコイツじゃないと無理なんだって思ったんだ」
そして彼女の手をそっと握った。少し強ばっている気がする。
その時、親父が何か喋ろうと口を開いた。