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「え?」


「だーかーらー、ロマンチストじゃないとかそんな問題じゃなくて、それ女側からすればすごい嫌な感じですよ」




昼休みがたまたま被った池田ちゃんに何故か説教くらうはめになった。


「そうなの?」


「プロポーズって特別なものですよ!それを何でさも当たり前のように…」


「でもアイツはさ」


「だから!」



こんなやりとりを何度も繰り返した。


思えば確かにプロポーズするにしては軽すぎるし、でも結婚っていう重みのあるものを有無を言わさず決定してるし、日頃のデートも興味のある何かがあれば彼女を置いてでもふらっと行ってしまうし、彼女にはかなり申し訳ないことをしている。


それなのに、彼女は嫌な顔一つせずにいつも笑顔で接してくれる。池田ちゃんに言わせると最悪なプロポーズをした時でさえ…。





「内村さんって意外と子供っぽいですよね」


「あ、そう?」


「香西さんが全部受け入れてくれますもんねー」


「ですねー」


「ちょっとは香西さんに感謝しないとダメですよ?」


「わーかってるよ」


「わかってない!」


ばしばしと背中を叩かれた。俺先輩だよね?なんてことを考えながらおとなしく説教される。




すると教員入り口から女性の声が聞こえてきた。


「内村さん、今よろしいですか?」


振り向くとそこには、氷室ちゃんが手招きして立っていた。



氷室ちゃんは今年入社の御年29歳。転職してウチに入ってきてもうすぐ一年経とうとしている。

年齢とは裏腹にその可愛らしい見た目が野郎どもに人気があって…えっと、ロリ系?か何かそんならしい。俺はよくわかんないけど。


「うん?どうした?」


「ちょっとお客さまがお見えになってて」


「客?」


「はい、一緒に来ていただけますか?」


「待って」



そう口を挟んだのは池田ちゃんだった。やたら不機嫌そうな顔をしている。


「申し訳ないんだけど、内村さんもう次の教習の準備しなきゃだから」


「でも、」


「あのねぇ」




池田ちゃんがつかつかと氷室ちゃんの方へ向かった。一触即発とはたぶんこの事…なんでこんな仲悪いんだ?池田ちゃんとかめんどくさい姑になりそう…。


「今まで客って言って本当に客だった試しがないじゃない」


「そんなことありません」


「じゃあなんで内村さんは毎回何事もなく帰ってくるの」


まあ確かに、なんて思いながら完全に傍観者の視点で二人を眺める。


「でも今日は本当にお客さまなんてす」


「じゃあ名前を言ってみなさいよ」



すると氷室ちゃんが予想外の名前を口にした。




「えーと…香西…薫さまです」



思わず池田ちゃんと目を見合わせて絶句してしまった。なんで?仕事?でもうち使ってる外車はBMWだし…。


「ありがと、氷室ちゃん」


軽くぽん、と肩を叩いて指導員室を後にした。





アイツ俺に連絡も寄越さずになにふらっと来てんだ。そう思いつつにやけて…いや、頬がゆるんでしまう俺は俗にいうツンデレってやつなのか?あれこれ考えながら受け付けへと向かった。



「お待たせしました」


綺麗な髪をかきあげながらゆっくりと彼女がこちらを向いた。


「え?」


「何?俺に用があったんじゃないの?」


彼女は少しびっくりした様子で話す。


「や、ただ『内村先生は教習中ですか?』って聞いただけなのに、受け付けの方が『お待ちください』って心なしか嬉しそうにどっか行ったから…」


「なーんだ、俺に会いに来たんじゃないんだ」


「私忙しいんです」



可愛くない奴、と思ってふっと笑い、髪をくしゃっとするといつものごとくむあー、と言って彼女が髪を整えた。


「じゃあ何しに来たわけ?」


「演奏会の広告回収に」


「何の?」


「交響の。今度現役OB合同演奏会があって、そのパンフレットに乗せる広告のOB負担分集めてるんです」


「マジ?それいつ?」


「えーっと、再来月の…2日ですかね」


「そうなんだ。その日休暇だから行くよ」


その言葉を聞いたとたん、彼女がぱっと明るい顔をした。


「ホントですか?じゃあチケット何枚かあるんで、同僚の方連れて見に来てください!」


「…がっつり宣伝してるよね」


「使えるものは使わなきゃ」



嬉しそうに笑う彼女を微笑ましく思いながら、例のやつを指折り数える。


「どうしたんですか?」


「んっとね、今の入れて7かな」



彼女が少し眉間にしわを寄せたあと、その意味を思い出してみるみる顔を赤くした。


「明日も仕事です!」


「俺もです」


「もーっ、とにかく!私は職場に戻るんで、同僚の方に宣伝しといてくださいよ」


「ただし9に増えましたけどね」


「知りません!」




…10に増えた…。


はー、ウケるー…、と心の中で思いながら走り去る彼女に向かって手を振った。それが表に出てきて、ついつい笑ってしまう。

…何でアイツはこんなにも俺を満足させてくれるんだろうな。愛しさがあふれてくる。




彼女の姿が見えなくなったので指導員室に帰ろうと振り返ると、そこには少し悲しそうな顔をした氷室ちゃんが立っていた。


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