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長かった一週間が終わり、ようやく週末に入った。俺にしては珍しく、この週の休暇は日月だった。


それとは逆に、彼女が珍しく週末に仕事があった。何でもどうしても参加しないといけない仕事なんだとか。





代わりに彼女は月火が休暇になったらしく、月曜に休みが被ったので二人でゆっくり出来るが、実は今週末ドームでモーターショーがあっていて、それに一緒に行こうと考えていたのだ。だからこの日は前々から休暇を取ってたのに…こんな結果になって非常に残念だ。




とはいえ、彼女がいないからといって行かないわけにはいかない。そんなことでと言ったら怒られそうだが、それを理由に見に行かないのは車好きの名が廃る。



彼女には悪いとは思うが、意気揚々と支度をする。たくさんのメーカーの車があるし、どうせなら車見るついでに綺麗な販売員に接客してもらいたいと思う。


…とか思ってるなんて言ったら、あいつふてくされるんだろうな。


その光景が簡単に想像でき、思わずふっと笑ってしまった。



「…ばーか、お前以外の女なんて興味ないし」


後々思い返せば結構恥ずかしい独り言を言って部屋を後にした。







ドームで入場券を買って中に入っていく。モーターショーは何度来ても飽きない。新しいモデルの車を並べてるからかもしれないが、俺にとってそれは特に関係ない。車は新しいモデルでも古いモデルでもすごく魅力的だ。


彼女か車かどっちが好きかと言われたら…うーん…。そう考えてからつい苦笑いする。寝ても覚めても考える事は彼女ばっかり…人生もうすぐ35年、捨てたもんじゃないなと思う。




ゆっくりと場内を歩いていると、会場内にいる人たちみんなが振り返るような綺麗な声でMCが喋っていた。


『こちらがその当社最新のモデルとなっております。いかがでしょうか?』



毎回コンパニオンがたくさんいて、どのメーカーも華やかに演出してある。だが、この会社はちょっと違う、コンパニオンは笑顔を振りまいているだけで特に何も喋っていなかった。



誰もが目を引くようなコンパニオンの横に立っているのは、その女性に引けを取らないような輝きを放つ、マイクを握った彼女だった。





びっくりしたというか、呆気に取られたというか、見惚れてしまったというか、とにかく言葉が出なかった。噂をすればなんとやらってやつか?てか仕事ってこれだったのか…。何かいかにもありがちなベタな展開でこっちが恥ずかしくなってくる。



とか言っときながら彼女にここで会えて正直嬉しい。にやけそうになる顔を必死で我慢してステージの方へ向かった。




彼女の話し方は、その辺のアイドル気取りの勘違いアナウンサーより断然上手かった。話を聞いていた限りだと、学生時代に谷原たちと携帯販売の仕事でMCと販売をしていただけあって、アナウンスもセールストークもすごいと思う。我が彼女ながら鼻が高い。


彼女が車の説明を終えると、拍手をする客もいた。俺の隣の人たちなんて『アナウンサーみたい』とか『あれタレント?』とか話していた。俺が彼氏ですなんて言ったらどんな目で見られるんだろう?

考えていることがいかにも子供っぽくて、ついつい笑ってしまった。





そして、何食わぬ顔で彼女の方へと向かった。今彼女は俺に背中を見せている。


「すみません」


「はい」


彼女が綺麗な笑顔で振り返った。毎日見る顔のはずなのに、思わずどきっとしてしまう。



「え!?何で!?」


彼女は右手を口元に当てて、小さい声で驚いた。予想どおりのリアクションについ笑ってしまう。


「モーターショーに俺が来ないとでも?」


「いや、ちゃっかり行ってそうですね」


「ちゃっかりってか…ちゃんと?」


「ホントに車好きですね」



彼女はさっきとは違う、格別な笑顔を向けてくれた。きっとこの笑顔は俺以外の奴は見たことがないはずだ。


愛しくて愛しくて仕方がない。




「まあね…じゃあ俺行くよ。仕事の邪魔しちゃ悪いし」


「あ、そうですか?」


「遠目で見守ってるから頑張って」


「はい」


彼女がはにかみながら言った。こんな可愛い彼女をからかいたいと思う俺はSだろうか?



「あ、そうそう…今日は4お仕置きね」


彼女の顔を確認せずにその場を立ち去った。さて、今日の夜は彼女の家にでも行きますか。


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